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 オープン仕様に基づいてさまざまなベンダーの基地局を自由に組み合わせられるようにする「Open RAN」の勢いが増している。先行する日本市場に加え、2020年11月には英国の大手通信事業者、Vodafone(ボーダフォン)が大規模導入計画を発表。米調査会社のABIリサーチも2020年10月、Open RANに対応した無線機(RU:Radio Unit)の市場シェアが2030年に75%に達するという強気のリポートを発表するなど、業界の主役に躍り出てきた。攻め込まれる大手ベンダーはどう動くのか。ここに来て既存ビジネスを守りながら、Open RANのメリットを取り入れるというしたたかな戦略が明らかになってきた。

業界の巨人エリクソンがOpen RANに歩み寄る

 通信機器大手3社の一角を占めるスウェーデンの巨人、Ericsson(エリクソン)がOpen RAN対応に重い腰を上げた。同社は2020年10月末、汎用サーバーを使って基地局の無線制御部分(DU:Distributed Unit、CU:Central Unit)を構成できる製品「Ericsson Cloud RAN」を発表した。仮想化技術を無線基地局に活用するいわゆるvRAN製品だ。Cloud RANは2021年の第4四半期から段階的に提供開始する。

2020年11月に開催したオンラインイベントでEricsson Cloud RANなどを紹介したエリクソン・ジャパン社長のルカ・オルシニ氏
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2020年11月に開催したオンラインイベントでEricsson Cloud RANなどを紹介したエリクソン・ジャパン社長のルカ・オルシニ氏
(出所:エリクソン・ジャパン)

 Cloud RANの狙いは「企業のプライベートネットワークや屋内スタジアムなどの用途に向け、これまでの専用機器では実現できない柔軟性の高い選択肢を用意すること」(エリクソン・ジャパン最高技術責任者の藤岡雅宣氏)という。専用チップ(ASIC)を用いる同社の基地局製品は、電力効率もよく処理性能も高い。だが専用機器で構成するため、急なトラフィック増といったニーズに柔軟に対応することが難しかった。

 例えば屋内スタジアムのようなケースだ。試合やイベントがないときは、高い基地局の処理能力を必要としない。しかしいざ観客が集まり試合やイベントが始まると、急激にトラフィックが増えて基地局に高い処理能力が求められるようになる。

 Cloud RANは、一般的なx86サーバーを使って基地局機能を構成する。「ハイパースケーラーのクラウドサービスを活用することも可能。無線アクセスネットワーク(RAN)のほか、コアネットワークやトランスポートネットワークと同じ汎用サーバーのプラットフォームを使いたいという通信事業者のニーズもある」(藤岡氏)。必要なときだけ、ほかのリソースを基地局に融通するといったことが可能になる。

Ericsson Cloud RANのデモの様子。専用ハードで構成する既存設備と汎用サーバーで動作するCloud RANを相互運用できる
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Ericsson Cloud RANのデモの様子。専用ハードで構成する既存設備と汎用サーバーで動作するCloud RANを相互運用できる
(出所:エリクソン・ジャパン)

 Open RANの仕様を策定するO-RAN Allianceの仕様も一部取り込む。エリクソンがサポート予定とするのが、O-RAN Allianceが仕様策定中の「ノンリアルタイムRIC(RAN Intelligent Controller)」と呼ばれるインターフェースだ。

 ノンリアルタイムRICは、データや人工知能(AI)を活用して基地局の機能を制御できるようにするオープンインタフェースである。例えば、天気予報のデータを分析し雨が降りそうだったら、雨の影響を受けやすいミリ波帯から影響を受けにくい低い周波数帯にしてトラフィック処理するといった制御ができるようになる。

 Open RANで最も注目を集める、無線部分のRUと無線制御部分のDUのオープンインタフェース「Open Front Haul」については、「通信事業者の要望に応じて柔軟に対応する」(藤岡氏)という立場にとどまる。RUとDUのオープン化こそが、大手ベンダーの囲い込みを逃れ新興ベンダーの機器を導入しやすくするアリの一穴になる。この部分についてエリクソンは、フルオープンにしないということだ。どうやら新興ベンダーとの接続に広く門戸を開くわけではなさそうだ。

汎用サーバーを使った基地局でも十分なスループットが出るとアピール
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汎用サーバーを使った基地局でも十分なスループットが出るとアピール
(出所:エリクソン・ジャパン)

 一方でエリクソンの既存設備との相互接続はフルサポートする。Open RANの導入は、既存設備との相互接続をいかに実現するかが課題の一つだ。エリクソンはシェアの高さから、既に世界の通信事業者のネットワークに導入されているケースが多い自社のRUを生かし、vRANの持つ柔軟な能力を実現できるようにする点を訴求する。エリクソンのCloud RANの内容からは、自らのシェアを守りつつ、新興勢のお株を奪うようなOpen RANのメリットを提供していく戦略が読み取れる。まさに王者エリクソンらしい一手だ。