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 KDDIや米Verizon Communications(ベライゾン・コミュニケーションズ)、スペインTelefonica(テレフォニカ)、そして米国の楽天モバイルとも言うべき第4の携帯電話事業者であるDish Network(ディッシュ・ネットワーク)――。ここに来て、世界の通信事業者が続々と米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)のクラウドサービスを活用したキャリアネットワークの構築やエッジサービスの提供に動きだしている。

 ディッシュは2021年4月21日、21年後半から米国の一部で開始予定の5G(第5世代移動通信システム)ネットワークについて、AWSのさまざまなサービスを用いて構築することを明らかにした。AWSの各種サービスをオンプレミス環境で実行できる「AWS Outposts」などの機能を用いて、Open RANや仮想化をフル採用したネットワークを構築するという。ディッシュは、世界的に注目を集めている楽天モバイルの仮想化ネットワークの形態をさらに一歩推し進め、AWSの機能をフル活用する。

AWS Wavelengthの設置例。通信事業者の5Gネットワーク内、CG-NATの後ろに設置するケースが多いという
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AWS Wavelengthの設置例。通信事業者の5Gネットワーク内、CG-NATの後ろに設置するケースが多いという
(出所:アマゾンウェブサービスジャパン)

 日本でも通信事業者によるAWSの活用が進む。KDDIは20年12月、同社の5Gネットワーク内にAWSのサーバーを設置し、アプリケーション開発者などがAWSのさまざまな機能を低遅延で利用できる「AWS Wavelength」サービスを開始した。キャリアネットワーク内に設置したAWSサーバーをMEC(Multi-Access Edge Computing)として扱い、通常のAWSと同様の操作感で低遅延な環境を利用できる点が特徴だ。

AWSはここ数年、低遅延に積極投資

 これまで、AWSを活用してキャリアネットワークを提供するには、通信品質の面で「キャリアグレード」を担保できないとする見方があった。さらに通信事業者にとって新たな収益確保の機会となるエッジをAWSの機能に頼ることは、「クラウド大手の軍門に下るに等しい」(業界関係者)と見る向きも多かった。

 だがここに来て、通信事業者が続々とAWS活用にかじを切る理由として、AWSがここ数年積極投資してきた低遅延機能が、いよいよキャリアが求める通信品質に追いついてきたという事情がある。「工場内のIoTのユースケースなど、遅延にシビアな利用形態が増えてきた。クラウドのデータセンターで折り返すのではなく、もっと手前で処理したいというニーズに応えるため、ここ数年でAWS WavelengthとAWS Outposts、AWS Local ZoneというAWSサービスを立て続けに拡充した」とアマゾンウェブサービスジャパン ソリューション アーキテクトの松尾 康博氏は語る。

 AWS Wavelengthは前述の通り、キャリアの5Gネットワーク内の場所を提供してもらい、AWS自身がAWSサーバーを設置する形態だ。AWS Outpostsは、幅広い企業を対象に、オンプレミスにAWSサーバーを設置する。AWS Local Zoneは、AWSが提供するデータセンター群を表す「AZ(Availability Zone)」をより顧客に近いエリアに張り出す形態だ。「これら3つは兄弟のようなもの。目的は低遅延の実現で一緒だが、運用方針が少し違う」と松尾氏は続ける。

 例えばAWS Outpostsを使って、キャリアネットワークを構築するケースを考えてみよう。AWS OutpostsはAWSのサーバー機能そのものを通信事業者のネットワーク内に設置できるため、キャリアグレードの遅延条件を十分に満たせる。AWSの操作感で、キャリアネットワークを構成するソフトウエア機能を実装できる。実際、ディッシュやテレフォニカジャーマニーは、5Gのコアネットワークの機能をAWS Outposts上で構成しようとしている。

米国で進むAWS Wavelengthを活用したビデオスイッチャーの事例
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米国で進むAWS Wavelengthを活用したビデオスイッチャーの事例
(出所:アマゾンウェブサービスジャパン)

 AWSの機能を用いてエッジサービスを提供できるAWS Wavelengthについても、米国ではベライゾンがいち早く提供を開始している。「米国では複数の映像をPicture in Pictureにして配信する際のレンダリングを、AWS Wavelengthを活用するような取り組みも登場している。MECの活用したサービスは、実際モノになるかどうか分からない分野も多い。MECサーバーを自前で設置すると失敗した際に損失が大きいが、AWS Wavelengthのような仕組みを用いるとリスクを抑えられる」と松尾氏は語る。