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 「つながるクルマ」に必須となる通信特許を巡り訴訟合戦になっていたフィンランド通信機器大手のNokia(ノキア)と独Daimler(ダイムラー)が2021年6月1日、電撃和解した。ダイムラーはノキアの持つ通信特許に対して特許料を支払うことに合意し、互いの訴訟案件を取り下げる。和解とはいえ、実際はノキアの全面勝利といえる。実際の交渉担当者を取材すると、それぞれの訴訟でダイムラーが追い詰められていたほか、完成車メーカーと部品メーカーが一枚岩ではなかったという事情も見えてくる。

注目を集めていたダイムラーとの通信特許を巡る訴訟は、事実上ノキアの全面勝利で和解した
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注目を集めていたダイムラーとの通信特許を巡る訴訟は、事実上ノキアの全面勝利で和解した
(出所:Nokia)

 「今回のダイムラーとの和解は、ノキアにとって大きなマイルストーンだ。ノキアの特許ポートフォリオの質の高さを示すだけでなく、自動車業界にとって、ノキアの特許ライセンスプログラムが受け入れ可能だということを示している」――。ダイムラーとの長年にわたる交渉を進めてきたノキア特許ライセンスビジネス部門であるNokia Technologies(ノキアテクノロジーズ)ディレクターのTeemu Soininen(テーム・ソイニネン)氏は、記者の取材に誇らしげに語る。

 ノキアが持つ2G〜4Gの通信特許に関し、同社がダイムラーに対して支払いを求める交渉を始めたのは今から6年前の15年のこと。だがダイムラーは、特許料の支払いは完成車メーカーではなく、つながるクルマの通信モジュールを作る部品メーカーであるべきだなどと訴え交渉が決裂。両社が互いにドイツの地方裁判所などに訴訟を起こすなどして泥沼化していた。

 ノキアとダイムラーの紛争の論点は主に2つある。1つは、サプライチェーンの中で誰が特許料を支払う主体となるべきかという点だ。通信業界ではこれまで、スマートフォンなどを製造する最終製品メーカーが特許料を支払う形が一般的だった。しかし自動車業界は、最終製品メーカーとなる自動車メーカーの下に、幾層も部品サプライヤーが連なる。ダイムラーのように、通信ユニットを納入する部品メーカーに特許料の支払いを求めるケースがある。

 もう1点は、特許料が適切な水準かどうかだ。通信業界に閉じた交渉であれば、特許料の相場観はおおむね一致する。しかし自動車業界と通信業界の特許料の相場観は大きく異なる。さらに自動車業界にしてみると、特許を相互に融通しあうクロスライセンスによって特許料を抑えるようなことも難しい。

 ノキアや米Qualcomm(クアルコム)、スウェーデンのEricsson(エリクソン)など通信業界の特許保有者が参加する特許プール「Avanci」は、つながるクルマ向けの特許料について、緊急通報(eCall)の特許を使う場合に自動車1台当たり3ドル、2G/3Gの特許を利用する場合に同9ドル、2G/3G/4Gの特許を使う場合に同15ドルという値付けを示す。この値付けについてダイムラーの主要部品メーカーであるドイツContinental(コンチネンタル)は、法外だとして米国で訴訟を起こしていた。