NTTが人類史上初という「宇宙データセンター」の実現に向けて動きだした。スカパーJSATホールディングスと組み、2026年にも人工衛星上でコンピューティング・ネットワーク機能を提供開始する。これまでも世界において宇宙データセンターの構想自体はあったものの、人工衛星自体の限られた計算能力や経済合理性の観点で実現に至っていない。NTTの勝算はどこにあるのか。壮大な計画の裏側に迫る。
「宇宙データセンターは、地上のデータセンターにコストパフォーマンスでは勝てない。しかしこれ以上、地球に負荷をかけないためにも、取り得る手段を取ることが重要だ」。NTTで宇宙データセンターの事業計画を推進する、同社研究企画部門 R&Dビジョン担当部長の堀茂弘氏はこう語る。
NTTは21年5月、スカパーJSATホールディングスと組み、宇宙データセンターを含む「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」事業への参入を明らかにした。宇宙という広大な空間や太陽光エネルギーを活用し、宇宙空間上で計算処理や通信することで、地球系エネルギーから脱却した「究極のエコを実現」(NTT社長の澤田純氏)することを目指す。
現在、起業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏が率いる米SpaceX(スペースX)の衛星インターネット事業「Starlink(スターリンク)」など、多数の人工衛星でコンステレーションを形成し、地球全体をカバーする通信網を作る動きが花盛りだ。ただしNTTのように宇宙空間上で計算機能も提供しようという例は「今のところ他にない」(NTTの澤田氏)。理由は単純。人工衛星の限られたスペースや計算能力では、意味のあるビジネスモデルをなかなか見いだせないからだ。
地球観測衛星のデータ取得を宇宙データセンターで即時に
NTTは宇宙データセンターを含む一連の事業に「数百億円規模」(NTTの澤田氏)を投じる計画だ。地上のデータセンターにどうしてもコストパフォーマンスで勝てない宇宙データセンターを事業展開するNTTの勝算は、一体どこにあるのか。
NTTの堀氏は「宇宙データセンターの限られた計算能力でも、課題解決に使える分野があれば意味がある」と強調する。同社が宇宙データセンター事業でまず狙うのが、地球観測衛星のデータ取得の即時化である。
近年、低軌道(地上〜1000km)を周回する地球観測衛星による新たなデータ活用のビジネスが急速に広がりつつある。NTTも、例えば地球観測衛星で撮影した画像データを使い、災害復旧の迅速化などに役立てているという。
ただ現状の地球観測衛星は「地上でデータを取得するのに1〜2日かかる」(堀氏)という課題がある。低軌道の地球観測衛星は地球を周回するため、データを地上局に送信するタイミングが限られるからだ。地球観測衛星と地上局の通信速度が遅い点もボトルネックになっている。
「宇宙データセンターによってアーキテクチャーを変えることで、地球観測衛星のデータをリアルタイム取得できるようになる。地球観測衛星の価値をさらに向上できる」と堀氏は続ける。具体的には地球観測衛星の生データをそのまま地上局に送るのではなく、データを取得した宇宙空間で計算処理し、その結果だけを地上局に送る形だ。
NTTが計画する宇宙データセンターは人工衛星1基ではなく、低軌道に数十〜数百基のコンステレーションを形成し、互いに通信できるようにする。人工衛星1基あたりの計算処理能力は限られていても、数十〜数百基の人工衛星で分散処理することで、大きな計算能力を持たせられる。地上局への送信についても、数十〜数百基のコンステレーションを組むことで、地上局に最も近い位置にある人工衛星から、タイムラグなしに計算結果を送ることができる。
堀氏は「地球観測衛星の活用は災害分野の他に農業や金融、安全保障分野にも広げられる。宇宙データセンターを地球観測衛星事業者に役立つインフラにしたい。これらの事業者との話し合いも始めている」と打ち明ける。