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 飛ぶ鳥を落とす勢いの基地局オープン化の動きに暗雲が漂い始めた。フィンランドの通信機器大手Nokia(ノキア)が、基地局オープン化の仕様をつくる業界団体「O-RAN ALLIANCE」における技術作業を中断したことが分かった。O-RAN ALLIANCEには、米国が国家安全保障上の懸念があるとする「エンティティーリスト」に記載された中国企業が参加する。ノキアは、O-RAN ALLIANCEを通じて中国企業に協力することで、米国からの制裁を恐れたとみられる。米バイデン政権になってからも続く米中摩擦の影響で、国際標準を前提としてきた通信の世界に、地政学的な分裂をもたらす可能性が出てきた。

「Open RAN」の震源地となっているO-RAN ALLIANCEが米中リスクで揺れている
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「Open RAN」の震源地となっているO-RAN ALLIANCEが米中リスクで揺れている
(出所:O-RAN ALLIANCEのホームページ)

 ノキアがO-RAN ALLIANCEの技術作業を中断したことは、欧州メディアであるPOLITICOが2021年8月末に報じた。ノキアは大手通信機器ベンダーの中でも、比較的前向きにOpen RANの動きに取り組んできた。ノキアの担当者は日経クロステックに対し「一部のO-RAN ALLIANCEへの参加企業が米国のエンティティーリストに追加されたため、ノキアとしては同団体への技術的活動を一時停止することが賢明と判断した。O-RAN ALLIANCEがこの問題を分析し、解決策を見いだすまで待つ」とコメントした。

 O-RAN ALLIANCEの担当者も日経クロステックに対し、「米国の輸出規制の対象となる可能性のある参加者に関する懸念を認識しており、米国の法律を確実に順守するようにO-RANの参加者と協力していく」と回答。報じられた問題が表面化している事実を認めた。

多数の中国企業が参画するO-RAN ALLIANCE

 O-RAN ALLIANCEは、昨今急速に注目を集める基地局オープン化の震源地といえる業界団体だ。これまで難しかった異なるベンダー間の基地局装置の相互接続を実現するため、グローバルで共通のオープンインターフェースの策定を進めている。18年初頭に団体が立ち上がり、21年6月末には、世界の主要な携帯電話事業者のほか、基地局装置のビッグベンダーや新興ベンダーを含む約300社が加盟するなど一大勢力となっている。

 21年に入り、O-RAN ALLIANCEが策定したオープン仕様に基づいて、さまざまなベンダーの基地局を自由に組み合わせられるOpen RANの動きも本格化している。例えば英国大手通信事業者Vodafone Group(ボーダフォン)やドイツの大手通信事業者ドイツテレコム(Deutsche Telekom)が、ここに来てOpen RANを活用した4Gや5Gのサービスを提供していく計画を明らかにしている。そんな矢先の米中リスクによるO-RAN ALLIANCEの問題表面化は、世界で勢いづくOpen RANの動きに水を差しかねない。

 ただしO-RAN ALLIANCEは発足時から米中リスクを内在してきた。そもそもO-RAN ALLIANCEは、米国企業を中心とした業界団体「xRAN Forum」と、中国系企業を中心とした「C-RAN Alliance」を母体として設立されている。そのためO-RAN ALLIANCEには中国通信最大手の中国移動(チャイナモバイル)のほか、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)など、中国企業が多数参画している。

 ノキアがリスクにつながると捉えたのは、最近になって米国のエンティティーリストに記載された中国企業3社、半導体を手掛ける上海金卓科技(Kindroid)とスーパーコンピューターを開発する天津飛騰信息技術(Phytium Information Technology)、サーバーなどを扱う浪潮集団(Inspur)のようだ。ノキアはこれらの企業に対してO-RAN ALLIANCEを通して情報提供を続けた場合、米国の制裁を受ける恐れがあると判断。同団体における作業を中断するに至ったようだ。