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 「まさかこんな形で始まるとは」――。筆者はソフトバンクが2021年10月19日、国内初となる5G(第5世代移動通信システム) SA(Stand Alone)方式の商用サービスを開始したことを受けて、こんな感想を抱いた。

 5G SAとは、コアネットワークも含めて5G専用で動作させることで、これまでNSA(Non-Stand Alone)方式で提供できた高速・大容量の機能に加えて、多数同時接続や超低遅延といった新たなメリットを打ち出せる導入形態である。1つのネットワークを、用途に応じて仮想的に分割する「ネットワークスライシング」のような機能も5G SA方式を導入することで初めて可能になる。

ソフトバンクは21年9月に開催したコンシューマー向け発表会で「SoftBank Air」向けに5G端末を投入することを明らかにした。当初は、この端末が国内初の5G SAサービスになることを伏せていた
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ソフトバンクは21年9月に開催したコンシューマー向け発表会で「SoftBank Air」向けに5G端末を投入することを明らかにした。当初は、この端末が国内初の5G SAサービスになることを伏せていた
(出所:ソフトバンクの発表会の様子をキャプチャー)

 こうした特徴から5G SA方式は、「真の5G」とも呼ばれ、5G機能をカスタマイズして利用したい法人ビジネスこそ本丸と考えられてきた。しかしソフトバンクが、5G SA方式の商用サービスとしてまず開始したのは、同社が一般家庭向けに提供するFWA(Fixed Wireless Access)サービス「SoftBank Air」だった。そのため筆者は冒頭のような感想を抱いたわけだ。

 5G SAに対応する端末は、SoftBank Airでは初となる5G対応端末「Airターミナル5」だ。ただ高速化した以外は、これまでとサービス内容を大きく変えていない。5G SAならではのメリットを打ち出せてはいない。

 それにもかかわらずソフトバンクがいち早く5G SA方式を開始した理由として筆者は、本丸である法人ビジネスで先手を打つために、ネットワークの安定運用のノウハウを重ねる狙いがあったのではないかとにらんでいる。

5G SA時代も「パケ止まり」再燃の恐れ

 筆者はソフトバンクのSA方式開始の直前、同社ネットワーク責任者である、常務執行役員兼CNO(チーフネットワークオフィサー)の関和智弘氏に話しを聞いている。

 5G SA方式の導入時期や目的について聞くと、関和氏は「既に商用フィールドで実験機が動いている。21年度中に商用端末を出す」と、5G SA方式の導入時期が近いことをにおわせていた。

 ただ導入目的については、「コンシューマー向けにSA方式ならではの機能を訴求することが課題。法人のほうが訴求する機会をつくりやすい。しかしコンシューマー向けにやらないことはない」(同氏)という答えだった。

 ソフトバンクは、同社が持つ5G周波数帯を使って企業や自治体向けにカスタマイズした5Gネットワークを提供する「プライベート5G」を22年度に開始すると既に発表している。プライベート5Gでは、ネットワークスライシングの活用なども視野に入れる。ソフトバンクにとっても5G SA方式の本丸が、こうした法人分野であることは間違いない。

 にもかかわらずソフトバンクが、コンシューマー向けにSA方式を先行導入したのは、やはり別の狙いがあるのではないか。

 前回の当コラムで紹介したようにソフトバンクやNTTドコモなど通信各社は、5Gにつながっているのにパケット通信が止まったりする、いわゆる「パケ止まり」に悩まされた。パケ止まりの発生は、5G NSA方式の運用の複雑さが原因の一つといえる。ここにきて、通信各社は対策を施すことでパケ止まり現象の解消につなげている。

 5G SA方式の開始後にも、同じような問題が再燃するおそれがある。5G SA方式が始まったとしても当初はエリアが限られており、郊外などでは4Gとの並行運用になる。その際に「5G SAから4Gへと世代間をまたがるハンドオーバーが発生する。世代間をまたがる場合、通信が不安定になりがちだ」とソフトバンクの関和氏は指摘するからだ。

 「パケ止まり」のような現象の再燃を防ぐためにもソフトバンクは、いち早く5G SA方式の運用ノウハウを積み重ねたかったのではないか。実際、SoftBank Airの端末は、家庭に据え置きするタイプだ。頻繁にハンドオーバーすることはない。パケ止まりのような事態が起きたとしても、一般的なスマートフォンなどと比べて、利用者への影響は最小限に抑えられる。5G SAを先行導入し、ノウハウを蓄積するには適した環境ともいえる。