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 楽天モバイル(以下、楽天)が全面的に採用したことで世界的な注目を集めている仮想化基地局「vRAN」。2022年2月末から3月頭にかけて開催されたモバイル業界最大級のイベントである「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC 2022)においてvRANは主役の一つだった。現在vRANのチップ周りをほぼ独占する米Intel(インテル)の牙城を崩すべく、米Qualcomm(クアルコム)や米Dell Technologies(以下、デル)などが新たなvRANソリューションを出展し、アピールに余念がない。vRANが本格化するといわれる23年に向けて、各社の主導権争いはさらに激しくなりそうだ。

クアルコムがMWC 2022のブースに展示した新たなvRANソリューション
クアルコムがMWC 2022のブースに展示した新たなvRANソリューション
米Hewlett Packard Enterprise(HPE)と協業し同社のサーバーにクアルコムのアクセラレーターカードを挿入する。無線信号処理の多くをアクセラレーターカードが担うことで、パフォーマンス向上を図れるという(写真:日経クロステック)
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世界の通信事業者がvRAN検討、「本格化は2023年」

 vRANは、楽天の本格導入から2年以上が経過した現在、英Vodafone(ボーダフォン)や米Verizon Communications(ベライゾン)など世界の通信事業者が導入を検討する業界トレンドになりつつある。

 Open RANの導入で先行するNTTドコモも「次はvRANがターゲット」(常務執行役員CTO〔最高技術責任者〕の谷直樹氏)と導入準備を進める。KDDIも22年度中にvRANの商用網への適用を予定するなど、国内でも楽天を追うかのように他社の導入が進みそうだ。

通信事業者から見たvRAN導入のメリットは3点
通信事業者から見たvRAN導入のメリットは3点
柔軟にネットワークを構成できる点や、汎用機器の活用でコスト削減を図れる点などである(出所:日経クロステックが作成)
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 通信事業者にとってのvRANのメリットは主に3点ある。まず、汎用サーバー上で基地局機能を動作させることで、これまで専用ハードウエアで構成していた基地局と比べ、柔軟な運用と迅速な展開が可能になる点だ。

 汎用サーバーを活用することで、コスト削減につなげられるメリットもある。楽天は完全仮想化技術を活用することで、設備投資を4割、運用コストを3割下げられたと強調している。

 さらに汎用サーバーを活用することで、基地局機能とエッジサーバーである「MEC(Multi-Access Edge Computing)」の共存も可能になる。この点もメリットだろう。

 5G(第5世代移動通信システム)が本格化する時代、これらのvRANの特徴は通信事業者にとって競争力強化につながる。業界内では「世界でvRANが花開くのは23年」(クアルコム)と言われ、それを目前としたMWC 2022では、多くのベンダーが新たなvRANソリューションを発表していた。

第2世代のvRANをクアルコムやデルがこぞってアピール

 「レイヤー1(L1)の無線信号処理をすべてこのアクセラレーターカードで担う。トータルで60%のコスト削減、40%の消費電力削減できる」――。

 クアルコムは、MWC 2022の会場内で新たなvRANソリューションをこのようにアピールした。同社はMWC開催の直前に米Hewlett Packard Enterprise(HPE)と共同で新たなvRANソリューションを発表。クアルコムのvRANアクセラレーターカードをHPEのサーバーのPCIスロットに挿入することで、高速大容量かつ低遅延なvRANを実現できるという。同社が採用するのが「Inlineアクセラレーション」と呼ばれる、新たなvRANソリューションだ。

vRANの主な対象コンポーネントとなるDU
vRANの主な対象コンポーネントとなるDU
特にレイヤー1に相当する符号化/復号化、変調/復調などの処理にリアルタイム性が求められるため、アクセラレーターによる負荷軽減が不可欠といわれている(出所:日経クロステックが作成)
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 vRANの主な対象コンポーネントとなるDU(Distributed Unit)は、基地局機能の中心となるレイヤー2(L2)/レイヤー1の無線信号処理を担う。ここではリアルタイムかつ負荷の高い演算が求められ、演算能力が基地局のパフォーマンスを決める。汎用サーバーをvRANで使う場合、専用ハードウエアと同等以上のパフォーマンスを実現できるかどうかが課題となる。

 特にMIMO(Multi Input Multi Output)レイヤーが増し、帯域幅が格段に広がる5Gは、4Gと比べて無線信号処理に必要な演算が、指数関数的に膨れ上がる。CPUのような逐次処理では演算が追いつかなくなるケースが考えられる。そこで、汎用サーバーにアクセラレーターカードを組み込むことで、CPUの負荷軽減を図る手法がクローズアップされている。

vRANの負荷軽減に向けた2つの手法
vRANの負荷軽減に向けた2つの手法
(1)Inlineアクセラレーション、と(2)Look asideアクセラレーションがある。前者はクアルコムやデルなど、後者はインテルなどが推進する(出所:日経クロステックが作成)
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 Inlineアクセラレーションは、主に2タイプあるvRANの負荷軽減手法のうち、最近目立ってきた第2世代といえるアプローチだ。レイヤー1の信号処理のすべてをアクセラレーター側に任せ、レイヤー2以上の処理をCPUが担う。