起業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏率いる米SpaceX(スペースX)は2022年8月25日(米国現地時間)、巨大衛星通信網「Starlink(スターリンク)」の第2世代において、衛星とスマートフォン(スマホ)を直接通信できるようにすると発表した。海の上や山間部など現在の携帯電話網では圏外になるケースが多い場所でも、特別な端末を使うことなく通信できるようにする。衛星とスマホの直接通信は、楽天モバイル(以下、楽天)などが協業する米国の新興衛星通信事業者AST & Science(以下、AST)も取り組みを進める。米Apple(アップル)が近々発表するとみられる次期iPhoneも、衛星との直接通信に対応するという噂が流れている。
「スターリンクの第2世代は、スマホと直接通信できるようになる。帯域はそれほど広くないが、テキストメッセージや写真のほか、セルゾーンにそれほど人がいない場合は動画を送受信できる可能性がある。何よりも携帯電話の圏外をなくせることが重要だ。人々の命を助けられる」
2022年8月25日(米国現地時間)、米通信事業者であるT-Mobile US(TモバイルUS)との共同会見に登壇したスペースXのイーロン・マスク氏は、スターリンクの新たなサービスについてこのように語った。
第2世代のスターリンクでは、TモバイルUSが持つミッドバンド(PCS、1.9GHz帯)の周波数帯をサービスリンクに使い、既存のスマホと衛星を直接通信できるようにする。2023年後半の試験サービス開始を目指す。
現在試験運用中の第1世代のスターリンクは、低軌道(LEO:Low Earth Orbit)に人工衛星を多数打ち上げ、衛星専用の周波数帯をサービスリンクに使ってブロードバンドサービスを提供している。端末は直径約50センチメートルのアンテナを備えた専用の送受信機だ。
専用端末を使わず、既存のスマホで衛星と直接通信できるようになれば、使い勝手が大きく向上する。地上の基地局では圏外になるような海の上や山間部などで遭難した場合も、手持ちのスマホを使って衛星経由で助けを求められる。
イーロン・マスク氏と共に発表イベントに登壇したTモバイルUS CEO(最高経営責任者)のMike Sievert(マイク・シーベルト)氏は「過去40年間、我々の業界の最大の弱点だった圏外をなくすことができる。TモバイルUSの代表的なプランにおいては、無料でサービスを提供したい」と語った。同氏は、同様の取り組みを国際ローミングに使って世界に広げたいとし、世界の通信事業者に参加を促す招待状を送ったという。
第2世代のスターリンクは、あくまで緊急時の通信手段にとどまりそうだ。通信速度は、衛星がつくるセルゾーンごとに2M〜4Mビット/秒にとどまる見込みという。そのため、当初はテキストメッセージやMMS(Multimedia Messaging Service)、一部のメッセージアプリからスタートする。その後、順次、データ通信や音声通話にも対応していく計画だ。
巨大アンテナを使う、楽天スペースモバイルとも真っ向勝負
低軌道衛星とスマホを直接通信できるようにするサービスを目指すのは、スターリンクだけではない。楽天や英Vodafone Group(ボーダフォン)などと提携する米新興企業ASTも「スペースモバイル」という名称で同様の計画を進めている。
低軌道衛星とスマホの直接通信を実現する上で最大の課題となるのは、地上からの微弱な上り電波と数百キロメートルも離れた上空にある人工衛星との間で、いかに通信を確立するのかだ。
ASTはこのような課題を解決するために、人工衛星側のアンテナを可能な限り巨大化する方針だ。ASTはスマートモバイル計画で使う人工衛星において、実に直径24メートルもの巨大アンテナを活用する予定である。
ASTは2022年9月末にも、本番と同様のサービス形態を初めて検証するための試験衛星「BlueWalker 3」の打ち上げを計画する。BlueWalker 3では、本サービスよりも若干サイズが小さい約64平方メートルのアンテナを利用する。
ASTの計画では、アンテナユニットを折り畳んだ状態で打ち上げて低軌道上でうまく広げられるのか、地球を周回する低軌道衛星で発生するドップラー効果の影響をうまく解消できるのかなど、さまざまな課題が見えている。
スターリンクの第2世代も、ASTと同様に地上のスマホの微弱な電波を受信するために「巨大なアンテナを採用する」(イーロン・マスク氏)という。マスク氏も、地上からの微弱な電波を確実に拾えるのか、ドップラー効果の影響を解消できるのかといった点が技術的な課題になると指摘する。「ラボの実験では、実際に動作が可能という点を確信している」と同氏は語り、スターリンク第2世代の成功に向けて自信を示した。