「0円プラン」廃止に携帯事業に伴う大きな赤字、そして「プラチナバンド」獲得を巡る既存3社との舌戦など、2022年も多くの話題を振りまいた楽天モバイル。そんな同社だが、世界的に見ると基地局を含めた仮想化ネットワークの導入や、さまざまなベンダーの基地局製品をオープンインタフェースに基づいて組み合わせられる「Open RAN」の先進事例として注目を集めている。同社のノウハウの集積地となっているのが、東京都内の某所にある「楽天モバイルオープンイノベーションラボ」だ。今回、同ラボを取材できたので、同社のノウハウ集積の実際に迫ってみよう。
エンド・ツー・エンドの検証が可能なシミュレーター群
「楽天モバイルは、Open RAN製品を自社でつくり、自ら使っている。これらを外販しているが、自ら使っていることで顧客の気持ちがダイレクトに分かる点が強みだ」
このように語るのは、楽天モバイルオープンイノベーションラボを担当する、楽天モバイル品質保証プラットホーム本部QAマルチアクセス部長の朽津光広氏だ。
楽天モバイルは、同社のモバイルネットワークを基地局を含めて汎用(はんよう)サーバーの仮想化基盤上に構築した。国内の商用展開で培った仮想化ネットワークのノウハウを、子会社である楽天シンフォニーを通じて海外の通信事業者に外販し始めている。
同社は仮想化ネットワーク中核となる、基地局の無線制御部分に当たるDU(Distribution Unit)とCU(Central Unit)について、完全子会社化した米Altiostar Networks(アルティオスター)の基地局のソフトウエア製品を活用している。
基地局の無線部に当たるRU(Radio Unit)については、フィンランドNokia(ノキア)や韓国KMW、台湾Sercomm(サーコム)、NEC、米Airspan Networks(エアスパン)といった複数のベンダーの機器を使い分けている。
DU/CUとRU間は、さまざまなベンダーの基地局製品をオープンインタフェースに基づいて組み合わせられる「Open RAN」の形態で構築している。
朽津氏は「これまでの基地局製品とOpen RANの違いは、DU/CUとRU間でインテグレーションが発生する点だ。Open RANでは、この部分のインテグレーションと品質保証を担保しなければならない」と強調する。
従来の基地局製品は、基地局を構成するDU/CUとRUは1社のベンダーが提供していた。DU/CUとRU間のインテグレーションや品質保証は、ベンダーによって担保されており、通信事業者はUE(端末)シミュレーターとコアネットワークのシミュレーター(コアシミュレーター)を使って検証すればよかった。
Open RANは、オープンインタフェースに基づいてさまざまなベンダーの基地局製品を組み合わせられるとうたっている。しかし現段階では、ベンダーごとに製品のプロファイルの差があるという。プロファイルの差を埋めなければ、1つの基地局として十分に機能せず、品質も担保できない。そこでインテグレーションという作業が必要になるのが、現時点でのOpen RANの実態だ。
楽天モバイルは、ベンダー各社のRUを組み合わせてモバイルネットワークを展開するに当たり、プロファイルの差を埋めるインテグレーションのノウハウを集めてきたという。その最前線基地が、楽天モバイルオープンイノベーションラボである。
同ラボ内には、楽天モバイルの仮想化ネットワークと同等の検証環境を用意している。さらにOpen RANの構成で各社の基地局製品を検証できるように、汎用サーバーで構成した仮想化基盤のほか、UEシミュレーターやコアシミュレーター、DU/CUシミュレーターなどの各種シミュレーターを用意している。さらにRUや端末を検証するための電波暗室なども備えている。
朽津氏は「グローバルに見ても、楽天モバイルのこの日本のラボが最もノウハウをためているだろう。楽天シンフォニーがOpen RAN製品を外販する際に、そのノウハウを生かしている」と強調する。