NTTドコモは2023年2月2日から28日にかけて、研究開発イベント「docomo Open House'23」(以下、Open House)をオンライン開催中だ。5G(第5世代移動通信システム)の進化や6Gに向けた研究開発、Web3時代につながる新サービスなどを展示している。
ドコモがOpen Houseの目玉として打ち出したのが、2023年2月中にβ版サービスを開始する予定の新たなメタバースサービス「MetaMe(メタミー)」だ。とはいえドコモは既に2022年3月から商用メタバースサービス「XR World」を提供している。なぜドコモはこのタイミングで別のメタバースサービスを始めるのか。そこには仮想空間が直面する課題を、技術の力で解決しようという狙いがある。今回、実際のOpen Houseの展示を取材できたので、様子を紹介しよう。
課題に挑む第2のサービス
MetaMeは、Webブラウザーから利用できるメタバースサービスだ。バーチャル空間における利用者の分身である「アバター」同士が、コミュニケーションを活性化しやすい仕組みをいくつも取り入れた点が特徴だ。
特徴の1つが、アバターの周りに表示される雲のような「価値観オーラ」である(図1)。利用者が簡単な質問に答えることで、「情熱的」「内向的」といった性格をシステムが判別。内向的な性格だったら白いオーラ、情熱的な性格だったら赤いオーラといった具合に、自分の内面を仮想空間上のアバターに表現する。MetaMeは、このような利用者の内面の性格に基づいて、気の合う他者とマッチングしてくれる。
1万人規模の利用者を同時収容できるメタバース空間を実現できる点も特徴だ(図2)。従来は利用者ごとに収容する仮想空間を分割するようなケースが多く、超多人数の接続による熱量を表現することが難しかったという。MetaMeでは、利用者のデータをサーバーを介してそのまま他の端末へと配信するような新たな技術を採用。映像処理のクラウド側と利用者の通信トラフィックを最適化するなどして、従来のクラウド処理環境と比べて、運用コストを96%以上も削減できるような仕組みを取り入れたという。
NTTドコモは2022年3月に独自のメタバースサービス「XR World」を開始済みだ。なぜこのタイミングで、別のメタバースサービスであるMetaMeを開始するのか。
NTTドコモによると「メタバースはまだ登場したばかりで課題も多い。技術的な課題の解決に着目し、それをサービスとして試すために今回、MetaMeを始める」と打ち明ける。
ドコモが考えるメタバースの技術的な課題は3つ。「集団のパワーを感じられる機会が少ない」「会話のきっかけをつかみづらい」「コミュニティーの熱量を維持することが難しい」である。
MetaMeはこれらの課題に着目し、「共感や貢献を通じた価値交換を実現する『メタコミュニケーション』を実現する」(NTTドコモ常務執行役員CTO R&Dイノベーション本部長の谷直樹氏)ことを目指した実証的なサービスといえる。
「集団のパワーを感じられる機会が少ない」という課題は、先に触れた特徴である1万人規模の利用者を同時収容できる技術でクリアしたい考えだ。「会話のきっかけをつかみづらい」という課題については、「価値観オーラ」に基づく利用者間のマッチングで解消を目指す。谷氏は「これまでのサービスは人々の行動に基づいたマッチングだった。MetaMeは人々の内面に基づいたマッチングを開発している。コミュニティーの活性化につながる行動変容技術を確立したい」と語る。
MetaMeは基本的には無料で利用できる。一部コンテンツを有料課金することでマネタイズを目指す。自治体や教育機関と連携したサービスも進める計画だ。ドコモによると、MetaMeで培ったノウハウを、既に商用化済みのXR Worldへと組み入れていくことも検討するという。
メタバースのようなコミュニケーションサービスは、利用者が日常的に使うサービスになれるかどうかが第1の関門となる。ドコモは、仮想空間が直面する技術的な課題をクリアし、コミュニティーの活性化を図ることで、こうした関門を乗り越えられるという仮説を立てた。ドコモは「iモード」以降、自ら開発したコミュニケーションサービスにおいて大成功を収めていない。商用開始済みであるにもかかわらず、類似の第2のサービスを提供する点から見ても、メタバースでは今度こそ主導権を握りたいというドコモの意気込みが伝わってくる。