2020年3月下旬、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社が5Gサービスを始めた。新規参入の楽天モバイルも2020年6月に商用サービスを始める予定だ。現行の4Gが始まったのは2010年12月。およそ10年ぶりの世代交代を迎えるが、派手さはない。新型コロナウイルス対策のため全国で外出自粛が要請され、店舗の客足は鈍い。消費者が5G対応の端末やサービスに触れる機会は奪われ、静かなスタートとなった。
エリアも速度も期待外れ?
5Gの出足が静かなのは別の理由もある。現状は提供エリアがごく一部に限られるのだ。例えばドコモの提供エリアは3月25日のサービス開始時点でスタジアムや商業施設、同社店舗など29都道府県の150カ所。エリア内でも5Gで通信できるのは施設域内や屋内にほぼ限られる。
KDDIは15都道府県、ソフトバンクは7都府県でサービスを始めた。やはり提供エリアは「東京都千代田区大手町の一部」など街の一部区画に限られる。実質、基地局が置いてある施設とその周辺に限られるケースが多い。
通信速度も期待外れに感じるかもしれない。5Gの規格上は下りで最大毎秒20ギガビットだが、3月時点ではドコモが同3.4ギガビット、KDDIが同2.8ギガビット、ソフトバンクが同2ギガビットとなっている。同20ギガビットの実現に向けてはミリ波と呼ばれる28ギガヘルツ帯を含め、多くの周波数の利用が前提となる。各社とも3.7ギガや4.5ギガヘルツ帯の基地局から整備を始めており、段階的に通信速度を引き上げていく計画だ。
高精細映像で現場を遠隔支援
大手3社は5Gの高速通信を生かした新サービスの開発に力を入れる。各社が訴えるのは映像の新しい体験だ。複数のカメラ映像を切り替えながら音楽のライブやスポーツの試合を楽しめるサービスを始めたほか、スマートフォン(スマホ)の画面を分割して複数の番組を同時視聴できるようにした。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用したサービスも多い。
企業向けのサービスも続々と始まる。中でも力を入れるのがドコモ。パートナー企業と共同で22種類の業務活用ソリューションを用意した。例えばサン電子と共同開発した遠隔支援サービスでは、現場作業者がカメラとAR機能を備えたスマートグラスを装着。高精細映像を元に遠隔地のパソコンなどから作業方法を指示すると、その内容がスマートグラスを介して現実映像と重ね合わせて表示される。
ネットワンシステムズなどとは顔認証による入退場管理システムを開発した。高精細の顔画像を5Gでセンター側に送るため、場所を問わず入退場ゲートを設置できる。このほか警備への活用、低遅延のライブ中継、建築・土木現場で用いる空間の3次元モデル化システムなどを用意した。