開発設計の管理者をしています。数カ月前まで業績への貢献や粗利率の向上が求められていたのに、ここに来て突然、「カーボンニュートラル(炭素中立)だ。早急に対策を打て」と言われて面食らっています。気がつくと右も左も脱炭素一色。しかし、どうそろばんをはじいても製造コストが上がり、利益は減ってしまいます。脱炭素の流れは製造業にとって足かせに思えて仕方がありません。
編集部:日本の産業界の景色は2020年10月を境にがらりと変わりました。変えたのは、菅義偉首相による「カーボンニュートラル」宣言です。所信表明演説において、「2050年までに温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする」と首相は宣言しました。しかし、電力1つとっても、日本では火力発電への依存度が高い上に、国土が狭くて森林率が高い(平地が少ない)ために、再生可能エネルギーを増やそうにもそう簡単ではないといった意見もあります。本音では、カーボンニュートラルへの対応は急にのしかかった重荷と捉えている企業は製造業では少なくないと思います。
肌附氏—突然降って湧いた課題だと思っているとしたら、世界の動向や時代の流れを見誤ったというしかありません。例えば、パリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)から離脱したトランプ大統領時代の米国や、温暖化ガスの削減に後ろ向きだった中国ばかりを見て、環境先進国と言われる欧州連合(EU)や英国の動きから目を背けていたのではありませんか。それが、バイデン大統領になって米国がパリ協定に復帰すると分かるや否や、慌ててカーボンニュートラルへの対応の必要性を感じているとしたら、管理者としては先が思いやられます。
編集部:耳が痛いと感じる企業は結構ありそうです。
肌附氏—かねて私は、管理者には「山を見て森を育てる」心掛けが必要だと言ってきました。これは私の造語で、山、すなわち世界の情勢や経済、市場などを観察しながら、日本の状況を把握する。そして、そうした状況に対して、森、すなわち自分の会社はどのような立場にあり、どのような動きをしているのかをグローバルな視点からブレークダウンしながら見ていく姿勢をこう表現しています。管理者はこうした見方を心掛け、いわゆる「先見の管理」をすべきだと指摘してきました。
編集部:本コラムでも以前解説のあった、先見の管理の大切さが、カーボンニュートラルが本格化した今になって身にしみます。それでも、例えば、二酸化炭素を排出しない燃料として期待される水素を燃料に使うと、現在は標準状態(0℃、1気圧)換算のガス量であるノルマル立方メートル(Nm3)当たり100円もします。これは、20円の天然ガスと比べると5倍の価格です。植物由来の材料を使ったバイオプラスチックも、化石資源由来の現行のプラスチックよりも価格は高くなります。どう考えてもやはり、製造コストは跳ね上がります。