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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

部品メーカーとの関係で悩んでいます。コスト削減のために、部品をできる限り新興国から購入する方針を会社が決定しました。これに従ってコスト競争力の評価リストを作成し、国内の部品メーカーを選別する仕事が私のいる職場に振られました。これまで長く付き合ってきて、時には無理を聞いてくれた部品メーカーとの取引を切るのは胃が痛い思いです。こうした場合、トヨタ自動車ではどのように対処するのでしょうか。

編集部:日本製と同等の品質の部品が造れるメーカーを探し、そこに転注する(発注先を変える)。それはビジネスとして当然の判断ではないでしょうか。

肌附氏—製品の価格を決めるのは顧客です。それはトヨタ車でも変わりません。トヨタ自動車は購買層を想定し、その層に合わせた最適な価格を設定しています。そこから各部品の価格を割り出していくのです。当然、トヨタ自動車も世界の激しい競争にさらされていますから、同じ品質であればより安価な部品を選ぶという基本方針は他社と変わりません。そうでなくては、競争に負けてしまいます。

編集部:ということは、トヨタ自動車も部品メーカーに対して厳しい選別を常に実施しているというわけですね。新興国の実力の向上を待って、国内の部品メーカーからの転注をどんどん行っている、ということでしょうか。

肌附氏—いいえ、そんなことはありません。もちろん、部品の原価は厳しく見ています。しかし、これまで長く取引してきた日本の企業を「より安価だから」という理由だけで切り捨て、新興国の企業に簡単に乗り換えるようなことはしません。むしろ、今は関係をより一層強化する方向に向かっています。

編集部:どういうことでしょうか。

肌附氏—トヨタ自動車を取り巻く環境が、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)実現という条件を課されて、より厳しいものとなっているからです。これまで経験したことがない難しい技術開発に挑戦し、乗り越えていかなければなりません。トヨタ自動車1社ではとても対応できるものではありません。そのため、部品メーカーを含む協力会社との関係をもっと強化する方向に動いているのです。

 これは、トヨタ自動車特有の考え方です。トヨタ自動車にあって他の自動車メーカーにはないもの、それは協力会社との間にある、ビジネス関係を超越した「絆」です。