(前回)、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)対応技術の開発を、多くの企業で協力して生み出すという考えをうかがいました。競合企業を含めて業界全体が直面する課題だからこそ、みんなで協力して技術開発する。とても興味深い考えだと感じます。ただ、どうしても競合企業と手を握るという点に抵抗を感じてしまいます。この点について、もう少し詳しくお話をうかがえますか。
編集部:カーボンニュートラル対応技術の開発を「全員参加の協業モデル」で乗り越えるというアイデアを斬新な発想と捉えた人は少なくないようです。技術面で共通の課題を抱えた企業がアライアンス(同盟)を組み、みんなで協力して技術を開発する。そして、開発した技術はアライアンスを組んだ全企業の共有財産として自由に使えると。
ただ、日々激しい競争を展開している企業同士が組むという点で、抵抗を覚える人もいるようです。競合企業を利する行為と感じる人もいるのではないでしょうか。
肌附氏—競争を否定しているわけではありません。競争領域をより明確に設定するのです。すなわち、競争領域以外の部分で協力し合う一方で、競争領域ではこれまで通り競争していきます。あくまでも、皆が悩む共通課題について協力して解決しようという提案です。
最近、日本の製造業は中国に比べると元気がありませんし、欧州には相変わらず環境政策の面で後れを取っています。しかし、カーボンニュートラル対応は、実は日本が挽回するチャンスではないかと私は捉えているのです。カーボンニュートラル対応技術を確立させて、日本の新しい輸出産業にすべきではないかと。
ところが、日本全体のカーボンニュートラル戦略は弱いように感じます。しかも、カーボンニュートラル対応技術の開発は大手といえども1社では難しく、中小企業の多くにとってはそこに割けるリソースが乏しいというのが実態です。そこで、日本企業の全員参加による協業モデルで対応していかないと日本は世界で勝てない、という課題提起なのです。
編集部:確かに、国が掲げた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を読んでも、具体策は企業に丸投げといった感は否めないところがあります。
肌附氏—さらに言えば、私はカーボンニュートラルのような環境技術については、日本企業同士で開発競争を繰り広げるべきではない、とも考えています。
例えば、トヨタ自動車はハイブリッド車(HEV)の技術を無償公開しました。トヨタ自動車には「普及してこそ本物の環境車」という考えがあり、独占せずに広く使えるようにして、HEVをもっと普及させて環境負荷の軽減に貢献できればよいと考えているのです。だからといって、トヨタ自動車のHEVの競争力が落ちたわけではなく、性能やコストで優位に立っています。
トヨタ自動車の技術を使う側の企業にしても、クルマの魅力はパワートレーンだけではないので、違う領域で競争すれば十分に商品力を高められます。