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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
トヨタ自動車が「仲間づくり」と表現し、クルマの電動化について多くの企業と協業している点に注目しています。スマートシティー「ウーブン・シティ」では、自動車業界の枠を超えて通信や不動産などの企業とも協業しているほどです。1つ気になるのは、特許の扱いです。利益の源泉であり、将来の成長源でもある特許は秘匿して競争力を保つべきだと考えていますが、いかがでしょうか。

編集部:2019年にトヨタ自動車がハイブリッド車(HEV)の特許を無償公開したのには驚きました。競争力の源泉をオープンにしてしまって本当に大丈夫なのかと、他社の経営方針ながら心配になりました。普通に考えれば、「虎の子」の特許は独占し続け、利益の最大化を図るところです。トヨタ自動車は他の会社とは異なるユニークな考え方や施策が多くて興味深い会社ですが、この施策に関しては今でも不思議に感じているところがあります。

肌附氏—特許は特許でしかありません。それだけで良い製品が造れるとは限りませんし、少なくとも、トヨタ自動車は特許で稼ごうとは考えていないと思います。やはり、トヨタ自動車は、ものづくりの会社ですから。お客様が望む良いクルマを開発・生産して、初めて会社の価値を世間に認めてもらえる。私自身はそう考えてきましたが、今の経営者も社員も多くが同じ認識をしているはずです。

 もちろん、知的財産権は大切です。いくら特許で利益を出そうと考えていないからといって、何でもかんでも無償公開するわけにはいきません。莫大な研究開発費をかけているわけですから、そんなことばかりしていたら赤字になってしまいます。