新型コロナウイルス禍が長引いている影響で、部品・材料の調達に混乱が生じています。これまでは在庫を極力抑えなければならないと言われてきましたが、今では「とにかく在庫は多めに持て」「世界中から部品・材料をかき集めろ」とガラリと変わりました。在庫を持っていないと、いつ工場が止まるか分かりません。一方で、財務基盤が悪化しないかという不安もあります。在庫をどのように捉えるべきでしょうか。
編集部:新型コロナ禍以降、世界中の製造業が部品・材料不足に苦しんでいます。この問題が解消していないのに、今度はウクライナ危機まで発生して、世界のサプライチェーンはさらに混迷の度合いを深めています。
製造業では、これまで「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ調達して造る」という、トヨタ生産方式の柱の1つとして知られる「ジャスト・イン・タイム(JIT)」生産方式がもてはやされてきました。しかし、最近はできる限り在庫を多く持つべきだという意見が増えているようです。その半面、「もはやトヨタ生産方式は通用しない」「JITは忘れるべきだ」といった声まで日本企業から上がり始めています。
肌附氏—トヨタ生産方式やJITが通用しないと言っている人は、その本質をきちんと理解していないのではないでしょうか。トヨタ自動車はトヨタ生産方式を今でも続けていますし、これからもやめることはないと思います。本当に通用しないというのなら、すぐにやめてもおかしくないはずです。
編集部:しかし、トヨタ自動車も部品・材料の調達に悩んでいますよね。
肌附氏—もちろん、トヨタ自動車も他社と同様に部品・材料不足という深刻な問題に直面しています。部品メーカーの工場が止まったり、都市封鎖(ロックダウン)で従業員が出社できなかったり、半導体メーカーの工場が火災を起こしたりと、さまざまな問題が次々に発生して、そのたびにトヨタ自動車の生産は危機にさらされました。その状態が今なお続いています。きっと調達部門の人たちは相当に神経をすり減らして胃の痛い毎日を過ごしていることでしょう。
編集部:ということは、トヨタ自動車はギリギリの状態にありながらも、なんとかJIT生産を続けている状況なのでしょうか。