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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

トヨタ自動車の2021年度の決算は極めて好調でした。売り上げは31兆3795億円、営業利益は2兆9956億円と共に過去最高を記録しました。今や日本で最大の企業であり、世界一の自動車メーカーの地位を揺るぎないものにしています。トヨタ自動車がここまで成長した最大の理由は何だと思いますか。トヨタ生産方式のような方法論ではなく、もっと根本的な理由があればそれを教えてください。

編集部:トヨタ自動車の強さを支えるものといえば、トヨタ生産方式(TPS)やジャスト・イン・タイム(JIT)が思い浮かびます。しかし、日本の製造業では既によく知られており、導入している企業もあります。

 2021年度の決算会見では、リーマン・ショックが起きた2008年度からの収益構造の変化をトヨタ自動車が紹介しました。両年度とも売り上げが15%減なのに、2008年度は大幅な営業赤字を計上した一方で、2021年度は大幅な営業黒字を実現。その理由として、カンパニー制や地域別のマーケティング「町いちばん活動」、モジュラーデザインである「TNGA」が奏功したという説明がありました。

肌附氏—売上高や営業利益は、トヨタ自動車で働く全員のいろいろな創意工夫や努力の総和だと思います。TPSとJITはトヨタ自動車の2本柱です。そこに今は新たな活動(先のカンパニー制など)が加えられているのでしょう。いずれも良い取り組みで、結果も付いてきている。しかし、私が「これが効いた」と思うものは別にあります。

編集部:とても興味深いです。それは何でしょうか。

肌附氏—「もっといいクルマを造ろう」という豊田章男社長の言葉です。リーマン・ショックの時、トヨタ自動車は販売台数を増やしていました。もちろん、売れるから造っていたのです。ところが、いつしか台数を追うようなものづくりになっていたのかもしれません。それを反省し、もっといいクルマづくりの活動へと大きくかじを切りました。

 当初は、ベテラン社員やOBの中には「自分たちの時代も頑張っていいクルマを造ってきた」「これまでのトヨタ車はいいクルマじゃなかったと言いたいのか」などと思った人もいたかもしれません。しかし、結果的に世界一の規模になったからこそ、あえて経営上の数字を追うのではなく、ものづくりに集中することが大切だというメッセージを経営トップが自ら発したのは、とてもトヨタ自動車らしいと私は感じています。