編集部:トヨタ自動車は他社にトヨタ生産方式を指導していると聞きます。そうした指導を受けているある機械メーカーに、なぜトヨタ生産方式を続けているのかと聞いたところ、「確実に生産性が上がるからだ」と言っていました。ところが、どうやらこうした企業は少数派で、最近はトヨタ生産方式の導入を希望する国内の製造業は減っているという話をよく聞きます。
肌附氏—他社にとってトヨタ生産方式が適しているかどうかは評価が難しいというのが正直なところです。トヨタ自動車の社員はトヨタ生産方式しか知らないからです。私自身、社員だった頃は、トヨタ生産方式を当たり前のものとして、何の疑問も持たずに受け入れていました。米国の学者が優れた企業の取り組み事例としてトヨタ生産方式を研究し、「リーン生産」として発表した時も、「そんなものかな」とあまりピンと来ませんでした。
しかし、トヨタ自動車を退職してから他社の取り組みをよく知るようになり、客観視もできるようになると、トヨタ生産方式はよくできているなと捉えるようになりました。
編集部:それはやはり、生産性や利益といった経営上の数字が良くなるからですね。
肌附氏—確かに、業績向上につながると思います。しかし、それはトヨタ生産方式の実践によって得られる効果の一面にすぎません。トヨタ自動車にはトヨタ生産方式を実践する本当の目的、「神髄」とでも呼ぶべきものが別にあります。それは、高い改善能力を備えた人材を育てることです。
編集部:そういえば、トヨタ生産方式が根付いている機械メーカーも「人が育つ」と言っていたのを思い出しました。
肌附氏—そこに気づいているからこそ、その企業は成長を続けているのでしょう。
トヨタ自動車では、トヨタ生産方式の実践を通して「改善マインド」を持つ人材を育てます。改善マインドとは、「あるべき理想の姿」に向かって常に改善を考えて実行できる意識のことです。しかし、そこがゴールではありません。最終目標は、さらにその先にある「改革マインド」を備えた人材です。
企業の社員には3つのマインドを持つ人材がいるものです。ムダマインド人材、改善マインド人材、そして改革マインド人材です。これらの違いを「穴の開いたコップ」の事例で説明しましょう。