前回(2022年10月号)の内容、すなわち、円安が進むと日本の製造コストは世界的にみてそれほど高くない水準となるため、それを日本のものづくりの活性化につなげるべきだという提案はとても興味深いものでした。一方で、グローバル競争はますます激しくなっており、競争力の高い製品を国内で造らないと、結局は世界で勝ち残れないのではないかとも思います。どのような製品を造るべきでしょうか。
編集部:1米ドル=149円(2022年10月18日時点)まで進んだ「超円安」を不安視する声が日本の製造業から上がる中、「日本のものづくりの活性化に生かすべきだ」という提案には、目からうろこが落ちました。為替が1米ドル=160円よりもさらに円安に振れると、日本の製造コストは世界的にみてもそれほど高くない水準になるため、為替を追い風にすべきであるという指摘も、日本の製造業にとっては前向きな考えだと感じました。円安を必要以上に怖がる必要はないな、と。
肌附氏—為替は個々の企業が直接どうこうできるものではありません。従って、為替がどのように動いても対応できる柔軟性を身に付けることが大切です。今回の円安では、中国が人民元安という為替を追い風に製造立国となった方法に学び、日本はものづくりの再興に力を入れるべきです。
だからといって、何でもかんでも日本で造ればよいというわけではありません。低コストが特に重視される付加価値の低い製品を、今さら国内生産に戻したところで日本の製造業にも経済にもプラスの効果はないでしょう。
私は、これからの時代に世界で勝ち残っていくものづくりには、2つの方向性があると考えています。
編集部:どのようなものでしょうか。
肌附氏—1つは高い技術を目指したものづくり(以下、高技術ものづくり)、もう1つは高品質を狙ったものづくり(以下、高品質ものづくり)です。高技術ものづくりとは、最新の半導体や電子部品、人工知能(AI)、量子コンピューティング、次世代通信技術など世界の最先端の技術を駆使する製品を造ること。一方の高品質のものづくりとは、目新しい技術をそれほど活用していなくても、品質保証がしっかりとした安心できる製品を造ることです。
世界的に高い技術力を備えた一部の日本企業は別として、日本の製造業が今後、高技術ものづくりの分野において世界で優位性を保っていくのは難しいのではないでしょうか。というのも、米国と中国の両国が、日本とは比べものにならないほど豊富な人材や資金を最先端技術に投じているからです。国が積極的に支援するのも共通する特徴です。
編集部:確かに、論文も米国と中国は日本を圧倒していると聞きます。何年か前に、日本で今以上にAIに注目が集まっていた時に、世界のAI関連論文の本数を調べてもらう機会がありました。その結果は、日本が数%で、残りをほぼ半分ずつ米国と中国が分けていました。あまりの差にとても驚いたのを覚えています。
肌附氏—ここに来て、日本でもようやく先端技術に携わる人材の育成に力を入れるべきだという声が上がるようになってきました。しかし、米国や中国は日本のはるか先を行っています。しかも、両国の世界的な企業が最先端の技術開発に携わる人材に支払う報酬は、日本とは比較にならないほど高い。それだけの市場価値があると評価しているからです。これでは優秀な人材が日本から海外に出て行くのは当然でしょう。その流れを止めるのは難しい。
編集部:日本でも最近、博士課程を卒業した人材や、高度な専門性を持つ社員の賃金を引き上げる例が出てきました。それでも、高度な技術や知識を持つ人材であれば、新入社員でも軽く1000万円を超える年収を提供する米国のテックカンパニーと比べると、金額面で見劣りするというのが、日本企業の現実だと思います。
やはり、日本の経済力の弱体化は今後も続くというのでしょうか…。