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 建設業界がテレワーク対応に追われている。在宅勤務を開始するに当たり、急いでビデオ会議を導入した会社は多い。中でも、米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(Zoom Video Communications)のビデオ会議ツール「Zoom(ズーム)」の利用を始めた会社が相当数ある。

 Zoomには脆弱性が次々と見つかり、情報漏洩などのリスクが指摘されている。建設会社の中にはZoomの利用を制限しているところもある。それでも2020年4月下旬時点で全世界の1日のZoom参加者数が延べ3億人を超えるなど、普及の勢いは増すばかりだ。

 そんな中、緊急事態宣言から約1カ月が経過した5月初旬の時点で早くも、「ビデオ会議は疲れる」という声が各所から聞こえ始めた。ある建設会社の設計者は「ビデオ会議の時間を短縮しなければいけないと感じている。対面の会議よりも疲労が大きい」と漏らす。

 会議改革に詳しいケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(東京都港区)の榊巻亮氏は、「ビデオ会議は画面越しのコミュニケーションなので『場の空気』を捉えるのが対面よりも難しい。しかも発言内容が共有されず、その場でどんどん消えていく感覚が強い。普段の会議以上に『発言を書き出す』ことを徹底し、議論を見える化しながら進めないとグダグダになる」と語る。

 会議中の発言を書き出すことを「スクライブ」ともいう。ビデオ会議ではスクライブが有効に機能すると、榊巻氏は説く。

 榊巻氏は大和ハウス工業出身で、一級建築士の資格を持つ。現在はケンブリッジで、企業の業務改革を支援するコンサルタントとして活動している。ビデオ会議は電話会議と比較して、相手の顔が見える分だけ場の空気を読みやすい。「せっかくカメラがあるのだから、参加者は全員、顔を映すのが原則だ」と榊巻氏は話す。

 「相手の反応が見えれば、言葉には表れない表情やしぐさといった非言語のコミュニケーションが成立しやすくなり、ストレスが減る。『同意』するときは、大きく『うん、うん』とうなずくなど、意識的に大げさなアクションで伝えることを心がけたい」(榊巻氏)。

榊巻亮氏の著書『世界で一番やさしい会議の教科書 実践編』。日常の会議の改革方法を解説している。本書の後半ではオンライン会議の様々なコツを伝授している(資料:日経BP)
榊巻亮氏の著書『世界で一番やさしい会議の教科書 実践編』。日常の会議の改革方法を解説している。本書の後半ではオンライン会議の様々なコツを伝授している(資料:日経BP)
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 パソコンの画面を1~2時間見続けたら、疲れるに決まっている。ビデオ会議が1時間を超えたら、休憩を挟むといった工夫も大切だ。そして、ビデオ会議を始める前に共有できる資料があるなら、あらかじめ全員に送っておく。ビデオ会議が始まってから資料に目を通すようでは、会議が長引くだけである。

 ビデオ会議中にリアルタイムで発言を書き出す(スクライブする)ためにも、あるいは事前に資料を共有しておくためにも、榊巻氏は「チャットツールを併用する」ことを勧める。発言を聞き逃したり、音声が途切れがちだったりしても、「文字に残せば振り返りやすく、(発言に対する)誤解や勘違いを減らせる。交代で誰かが書記係を務めるなどの運用が効果的だ」(榊巻氏)。

 ビデオ会議やビジネスチャットの主なツールは、既に紹介済みだ。

 コミュニケーションツールを提供しているベンダーの動きも盛んになってきた。米フェイスブック(Facebook)は4月24日に、「Facebookメッセンジャー」などの動画関連機能を強化すると発表した。米グーグル(Google)は5月上旬にも、法人向けだったウェブ会議ツール「Google ミート(Meet)」を個人用に無料で提供し始める。

 LINEは5月3日に、LINEのグループビデオ通話と音声通話を強化したと発表。グループ通話中にスマートフォンの画面を全員で共有したり、YouTubeを一緒に見たりできる新機能「みんなで見る」を追加した。グループビデオ通話中に画面表示できる人数も、スマホで最大6人、iPadで最大9人に拡大した。

LINEの新機能「みんなで見る」。グループ通話中にスマホ画面やYouTubeの動画などを共有できる(資料:LINE)
LINEの新機能「みんなで見る」。グループ通話中にスマホ画面やYouTubeの動画などを共有できる(資料:LINE)
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 投入されたばかりのサービスは、セキュリティーの問題が起こりやすい危険性がある。それでも新たなコミュニケーション手段の選択肢として、検証しておく価値はある。導入は慎重に進めたいが、複数のツールのいいとこ取りをして併用するなど、どんどん活用しよう。

 建設業界の仕事に欠かせない資料といえば、図面やスケッチがある。ビジュアル資料を挟んで複数人で議論するのは、日常の風景だ。それらに図形や印、文字、追加のスケッチなどを書き込んで、指示や変更点を伝えることはよくある。それはテレワークでも変わらないし、対面の機会が激減している分、遠隔地間の共有を工夫しなければ仕事が進まない。

 CAD図面などは、いったんPDF形式に変換して検討作業を進めるのが一般的だろう。その際に便利なのは、タブレットとタッチペンの利用である。中でも、何人もの設計者が名を挙げたのが、米アップル(Apple)のiPadと、その専用ペン「Apple Pencil(ペンシル)」である。愛用者は非常に多い。

iPadとApple Pencil(手前の白いペン)、キーボード。Apple Pencilとキーボードは、本体とは別売り(資料:米アップルの公式ストア、2020年5月初旬時点)
iPadとApple Pencil(手前の白いペン)、キーボード。Apple Pencilとキーボードは、本体とは別売り(資料:米アップルの公式ストア、2020年5月初旬時点)
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