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 新型コロナウイルスの感染拡大は、中小住宅事業者の経営面にも影響を及ぼしている。住宅業界にとって春は本来、物件引き渡しのピーク。また新規受注に向けた集客・営業の重点タイミングでもある。引き渡しの遅延、対面営業の自粛、もとより顧客心理の冷え込みと、強烈な逆風が吹いている。中小住宅事業者、特に地域住宅会社や工務店の経営で今なすべきことは?――。日経アーキテクチュアの連載「『会計的思考』のススメ」(2019年7月11日号~同12月26日号)で講師を務めた公認会計士の山内真理氏に解説してもらった。(文・構成:守山久子=ライター)

 新型コロナウイルスの感染症拡大による経済的影響の第1波は、中国の生産がストップして資材の輸入ができなくなったことにより起こりました。その影響を受けなかった他の業界に先行して、戸建て住宅を手掛ける設計事務所、地域住宅会社、工務店など、住宅業界ではいち早く影響が出たといえます。

山内真理(やまうちまり)氏。1980年千葉県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、大手監査法人を経て2011年に公認会計士山内真理事務所設立。NPO Arts and Law代表理事(共同代表)も務める(写真:日経クロステック)
山内真理(やまうちまり)氏。1980年千葉県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、大手監査法人を経て2011年に公認会計士山内真理事務所設立。NPO Arts and Law代表理事(共同代表)も務める(写真:日経クロステック)

 なかでも工事を手掛ける事業者は、もともと日常的に一定のボリュームで資金の出入りがあるビジネスモデルで、一般に借り入れ依存度が高い傾向にあります。着工の遅れや工事の中断などによって引き渡しが遅れると、各段階で見込んでいた入金が後ろ倒しとなり、資金が一気にひっ迫してしまいます。

 今回も、公庫などの特別貸し付けやセーフティネット保証付き融資を利用して、借り換えや新規借り入れを実行し、手元資金の確保に動かざるを得なかった会社は多いのではないでしょうか。契約の延期や失注、案件の遅延といった状況を防ぐために、「顧客との打ち合わせをオンライン化する」「オンラインで相談会を実施する」などの工夫を実施している会社もあります。

 以下では、喫緊(きっきん)の資金対策となる公的な助成・補助制度について、国が示している主な対策*1の現状を見てみましょう。

 この4月中から私の事務所に多くの問い合わせがあったのが、中小企業で200万円、個人事業主で100万円を上限とする「持続化給付金」です。受給の要件は、新型コロナ感染症の影響によって2020年1月以降のある月の売上高が前年同月比50%以上減であること。この5月1日から受け付けが始まり、申し込みから2週間程度で払い込まれるといわれています。実際、5月20日時点で、持続化給付金の着金を確認したという声が聞こえ始めています。

 返済不要の制度ということでは、休業した企業を対象とする「雇用調整助成金」もあり、新型コロナ感染症対応で条件を緩和しています。ただし、雇用調整助成金の手続きは煩雑です。多くの事業者は、自社で申請するのが難しいため、社会保険労務士(社労士)に依頼して手続きを進めるのがこれまでも一般的でした。加えて、「支給額に上限があり、従来の給与水準を維持しようとすると企業側の負担が重い」「助成金支給までのタイムラグを考えると直近の資金繰り対策にならない」といった課題も指摘されています。申請を検討したけれども、結局は断念するケースは多いと聞きます。

 他方、融資関連では公庫系(日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫)の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」に、事業者の注目が集まっているようです。融資の対象は、前年ないし前々年の同期と比較して売上高が5%以上減の事業者など。当初3年間の金利を0.9%引き下げている他、通常は7年間の返済期間を最大15年間に、1年間の据え置き期間を最大5年に、それぞれ延ばしています。

 特別利子補助制度と組み合わせると実質無利子化も可能と、従来メニューに比べて有利な条件なので、借り換え・新規いずれのニーズでも活用しない手はありません。ただし現在、着金までに時間を要しているようなので注意が必要です。公庫側は、通常なら対面でヒアリングする内容を電話で対応するなど、手続きの効率化を図っていますが、それでも申し込みが集中しているためです。申し込みが殺到し始めた4月以降は、例えば審査まで1カ月、着金までにさらに1カ月というように、通常と比べて大幅に時間がかかっているケースが多数報告されています。

 公庫融資に限らず、様々な制度の窓口が混み合っているのが現状です。そうしたなか、各企業は手元資金を枯渇させないために、考え得る対策を全て実行していく必要があります。融資では「セーフティネット保証4号・5号」や「危機関連保証」の制度を利用した民間金融機関の融資、商工会議所を通じたマル経融資(新型コロナウイルス対策小規模事業者経営改善資金融資)などもあります。各種給付金や助成金の申請も含めて、スピーディーに準備を進めておくことが重要です。