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 現場の従事者から新型コロナウイルス感染者が出た場合、工期見直しはまず議論すべきポイントだ。現場で「密閉・密集・密接」を避けるためには、余裕のある工期設定が欠かせない。では工期延長で損害が生じた場合、それは誰が負担するのだろうか。建築分野に詳しい柴田亮子弁護士の寄稿として、契約上の論点を整理した。(日経クロステック/日経アーキテクチュア)

4月15日から工事を一時中断した清水建設の建設現場。同社は5月6日、工事再開の方針を発表した。写真はイメージ(写真:日経アーキテクチュア)
4月15日から工事を一時中断した清水建設の建設現場。同社は5月6日、工事再開の方針を発表した。写真はイメージ(写真:日経アーキテクチュア)

 清水建設が緊急事態宣言対象地域での工事を一時中断したのは大きなニュースとなりました(2020年4月13日公表)。ひとまず国内の緊急事態は脱したとされているものの、まだ油断はできない状況にあります。今後、現場で感染者が発生した場合、具体的にはどのような対応を取るべきでしょうか。当コラムでは、主に契約上の観点から論考したいと思います。

 第1に現場対応の在り方です。建設会社の従事者が医療機関で新型コロナウイルス陽性と診断された、その事実が会社に連絡された際を仮定しましょう。この従事者と身近な同僚は「濃厚接触者」に当たる可能性があり、まずその状況を把握する必要があります。感染拡大を防ぐため、この一群の方々には自宅待機してもらうなど、適切な措置を講ずる必要があります。

 発注者へも速やかに状況を報告する必要がありますが、工期遅延が避けられない状況も起こり得ます。こうした対応措置について国土交通省は20年4月8日、契約履行における「不可抗力」に当たるとの事務連絡を、地方公共団体、建設業者団体、民間発注者団体に通知しました。

 4月8日付通知は今回の新型コロナウイルス感染症の影響に伴った資機材の調達困難、感染者発生などについて、「受発注者の故意または過失により施工できなくなる場合を除き、建設工事標準請負契約約款における『不可抗力』に該当するものと考えられる。この場合、受注者は発注者に対し、工期延長を請求できるとともに、増加する費用については受発注者が協議をして決めることとされている」と記しています。

 具体的には個別に契約書を確認する必要性がありますが、民間建設工事標準請負契約約款にも同様の規定があります。これは以前からあった条項で、20年4月1日の改正民法施行に伴った改訂約款でも維持されています。

 この協議において、受発注者間で工期延長を合意できた場合、合意書を作成することを勧めたい。今後の推移が予想できない現状においては、完成日については「建築工事が再開できる状態になり次第、甲乙協議の上決定する」とし、確定日としないのも有効な手段といえます。工期延長が合意できなかった場合、その交渉経緯を議事録などに残しておくことは、万が一の建築紛争に備えることになります。

損害は誰が負担? 決定打なく歯がゆい状況

 工期延長の協議は、実際に発生する損害を誰が負担するのかという問題と密接に関係します。特に民間工事ではここが大きな論点となります。

 まず発注者の損害としては、マンション建設工事など、完成日に合わせて入居予定者がすでに決まっている場合が考えられます。国交省4月8日付通知には、工期延長について「特段の事情がない限り、受注者の責めによらない事由」とすることを参考にするように、とあります。つまり、受注者には帰責事由がないこととなり、受注者は工期の延長に伴う発注者の損害について、損害賠償責任を負わないことになります。これも民法改正前後で変わりありません。

 では受注者に発生した損害はどうなるでしょうか。受注者の損害としては、機材・足場などのリース代、現場作業者の追加確保などが挙げられます。こうした増加費用は受注者負担となると、受注者としては、容易に発注者に工期延長を求められなくなってしまいます。この点、国交省4月8日付通知は「受発注者間で協議を行った上で、工期の見直しやこれに伴い必要となる請負代金額の変更、一時中止の対応など、適切な措置を行うようお願いします」としか示唆しておらず、当事者任せになっているのが歯がゆいところです。

 民間建設工事標準請負契約約款の規定も、「工期の変更があったときは受注者は請負代金額の変更を求めることができる」との記述にとどまっています。論争を呼びそうなのが「不可抗力による損害」を規定した同約款21条2項です。「発注者および受注者が協議をして重大なものと認め、かつ受注者が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、発注者がこれを負担する」と規定しています。つまり発注者負担を求められる場合はある、ということになります。

 この条項は「発注者または受注者のいずれにもその責めを帰することのできない事由によって、工事の出来形部分、機器などに損害が生じたとき」の危険負担を示す規定であって、新型コロナウイルスなどに起因する工期の延長による損害を直接想定したものではありません。地震などの天災により、工事途中の建築物が損壊した場合などを想定したものです。交渉においてこの規定をどう適用するかは議論の余地が残るところです。