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 新型コロナウイルスによる政府の緊急事態宣言を契機に、家づくりの実務でもウェブ会議システムを様々なシーンで活用する動きが活発化している。1対1の顧客対応や社内コミュニケーションだけにとどまらず、集客戦略の一環として「完成見学会」などの営業イベントに活用する動きもある。

「リモート見学会」はパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末でも視聴できて手軽。写真は、実際にある見学会に参加してみた筆者(写真:大菅 力)
「リモート見学会」はパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末でも視聴できて手軽。写真は、実際にある見学会に参加してみた筆者(写真:大菅 力)
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 神奈川県海老名市の前田工務店が取り組んだ例を紹介しよう。同社ではこの春、緊急事態宣言の発令期間中に、以前から手掛けていた新築戸建て住宅が完成。同社では従来、完成直後に見込み客などを対象にした見学会を実施してきたが、外出や対面交流の自粛が社会全体に求められていた渦中に、リアルな見学会を開いても参加者を期待できない。そこで同社では、前田哲郎社長を中心にウェブ会議システムを使った「リモート見学会」を初めて開催した。「参加者の反応も良く、手応えを感じた」と前田社長は話す。

前田工務店が実施したリモート見学会の1コマ。「Zoomミーティング」を使ってウェブ会議の要領で実施した。画面上の左手は物件内で解説する社員、右手は参加者(資料:前田工務店)
前田工務店が実施したリモート見学会の1コマ。「Zoomミーティング」を使ってウェブ会議の要領で実施した。画面上の左手は物件内で解説する社員、右手は参加者(資料:前田工務店)
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 ウェブ会議システムはZoom(ズーム)を使用。見学会の開催日時を設定したうえで「Zoomミーティング」の「会議室」を予約し、自社のウェブサイトで募集告知を公開した。対象の完成物件では見学会を2回計画し、いずれも2組限定で参加希望者を募集。参加が確定した相手には、Zoomに予約した「会議室」のURLをメールで送るだけ。見学会開催中は、同社のスタッフがカメラとマイク代わりにしたiPadを手に、物件の内外を回って紹介。参加者の質問にもリアルタイムで応答した。

 リモート見学会の実施時間は、1回当たり1時間程度。参加者を1回2組に限定したのは、初めての取り組みということもあるが、「物件をじっくり見てもらい、質問などにもきめ細かく対応するには少人数が前提」との考えもあった。実施時間も、参加者の集中力が途切れない限度を考慮して決めた。「遠隔にいても気軽に参加できる」というリモート見学会本来のメリットに加えて、前田社長は、2回の実地体験からこの手法の意外な効果も発見したという。

 「リアルな見学会で複数の参加者がいる場合、なかには、よそ見してこちらの説明を聞いていない人もいる。しかしリモート見学会では、参加者は常に手元のスマートフォンやタブレット端末の画面映像に注意を向けている。リアル以上に、こちらの話をしっかりと聞いてくれていると実感した。伝えたいことをより確実に伝えるうえで、リアルより効果を期待できるように思う」。前田社長はこのように話す。

 緊急事態宣言は既に解除されたが、同社は今後も完成物件のリモート見学会を実施していく意向だ。「今後のリモート見学会では、より臨場感を出すためにハンズフリーで使用するウエアラブルカメラを導入したり、開催時の録画を動画コンテンツとしてYouTubeチャンネルに投稿したりといったことを考えている」。前田社長はこのように意気込みを語る。

 一方で前田社長は、これまでになかった懸念も意識するようになったという。リモート見学会のほかリモートでの打ち合わせなど、大手・中小を問わず住宅事業者が同様の非対面でのコミュニケーション手法を拡充させている。家づくりを検討している見込み客層の立場から見れば、より手軽に、より数多くの住宅事業者にアプローチできることになる。その結果、見込み客の属性が広がり、本来の顧客層とは異なる相手にも対応する必要が生じる。「"見込み客”に振り回され、結果として受注できないケースが生じるのではないか」ということが前田社長の懸念だ。

 「見学会でも、敷居の低いリモートタイプと従来のリアルタイプを組み合わせるなどして、効率的・効果的な集客と適切な“顧客選別”を両立することが、今後の重要な課題になるだろう」。前田社長はこのように話す。