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 新型コロナウイルスの感染拡大によって、アパレル業界はかつてない危機にさらされている。店舗の営業自粛を余儀なくされている今、頼みの綱はEC(電子商取引)だろう。新型コロナは店舗を訪れてものを買ったりサービスを受けたりする当たり前の消費活動を破壊した一方で、消費者がSNS(交流サイト)などに流れるコンテンツと向き合う時間を増やした。ネットを駆使した独自の施策で「ファンを生む」アパレル企業の取り組みを追った。

 「去年このセットアップを買ってとても着やすかったので今年も欲しくなっちゃいました! デリの服を着ていると主人から褒められることが多いです♪」「ご愛用いただけていてうれしいです(≧▽≦)ご主人さまから褒められるなんて……もう、ものすごーくうれしいお言葉です!」――。

 婦人服ブランド「STYLE DELI(スタイルデリ)」のブログのコメント欄では、毎日顧客とスタッフのこのようなやり取りがされている。新商品をブログで紹介すると毎回数十件のコメントがつき、1つ1つのコメントに対しブランドの担当者が丁寧に返信する様子は、一種のコミュニティーを形成しているようだ。ブログの月間ページビューは100万を超える。

STYLE DELIのオフィシャルブログ
STYLE DELIのオフィシャルブログ
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 アパレル業界では近年、ECで商品を直接販売する「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」のビジネス形態を採るブランドが存在感を強めている。新型コロナによる店舗の営業自粛もあり、ITを駆使してオンラインのみで商品を販売するスタイルデリのようなD2Cブランドにさらに注目が集まっている。

 D2Cは単なる「直販」とは異なり、SNSやブログなどを通じて商品が開発された背景のストーリーを語ったり、顧客と密にコミュニケーションを取ったりすることで、熱量の高いファンを抱えるのが特徴だ。

 スタイルデリを運営するアパレル企業ネバーセイネバーの齊藤英太社長は2020年4月、D2Cのコンサルティング会社「D2C Branding」を立ち上げた。これまで大手アパレル企業のEC事業のコンサルティングを手掛けてきた経験を生かし、会社として独立させてD2C強化に取り組むブランドの支援に乗り出す考えだ。

 従来、ブランドを運営するには百貨店や渋谷・原宿などの一等地に店舗を構え、雑誌などに膨大な広告費を投じて認知度を高める必要があった。だが今やInstagramなどのSNSで誰でもブランドを発信できるようになり、マーケティングコストは低下。店舗を持たない分、家賃などの固定費を削減できる。

 「ネットやSNSがこれだけ浸透した今、店舗を持つことがブランドを成立させるための必須条件ではない」と齊藤社長は断言する。実際、新型コロナでファッションの消費マインドが低下する中でも、D2Cブランドはこぞって好調を維持しているという。

アパレル未経験から月商数千万円を売り上げるブランドに

 D2Cでもう1つ注目すべきブランドが、身長155センチメートル以下の小柄な女性向けブランド「COHINA(コヒナ)」だ。アパレル業界の経験がない女性2人が立ち上げたブランドにもかかわらず、わずか1年で月商数千万円を売り上げるなど、急速に人気を集める。

 コヒナの特徴は毎日インスタライブを開催する点。「みなさんはこちらのパンツならどっちの色がいいですか~?」など、代表の田中絢子氏自ら視聴者に語りかけてファンとコミュニケーションを取る。試作の段階で客に商品を見せてその反応を開発に生かすなど、顧客とブランドを「共創」している。多いときは7000人近くが視聴するという。田中氏は「コヒナはお客さまとの親近感を何よりも大事にしている」と語る。

COHINAは毎日インスタライブを開催する。ブランド共同代表の田中絢子氏(写真)も自ら配信者になる
COHINAは毎日インスタライブを開催する。ブランド共同代表の田中絢子氏(写真)も自ら配信者になる
(出所:COHINA)
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 インスタライブはコヒナのスタッフなど約15人が日替わりで行う。小柄な女性の中でも年齢や体形が違う配信者を使うことで、多様な視聴者に対応できるようにしている。

 「ファッションは必需品ではなく、ついつい買ってしまうもの。店舗を持たない分、動画でも着たときのイメージをきちんと膨らませて『コヒナの服を着て出かけたい!』と思ってもらえるような配信を心がけている」と田中氏。