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新型コロナウイルス感染症の拡大によって、タクシー需要は急速にしぼんだ。東京都内では前年比で実に65%も落ち込んだという。ちょい乗りを促進するため、初乗り410円を仕掛けたり、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の流れに対応するためタクシーの配車アプリを事業化したりするなどタクシー業界の変革を主導してきた日本交通代表取締役会長の川鍋一朗氏は、アフターコロナのタクシー業界にどんな未来を描くのか。直撃した。(インタビューは2020年4月24日にオンラインで実施した。聞き手は東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

川鍋一朗(かわなべ・いちろう)氏
川鍋一朗(かわなべ・いちろう)氏
慶應義塾大学経済学部卒業。1997年ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院MBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社を経て2000年日本交通に入社。05年代表取締役社長、15年より現職。14年東京ハイヤー・タクシー協会会長、17年全国ハイヤー・タクシー連合会会長に就任。(写真:日本交通、以下同)
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新型コロナウイルス感染症でタクシーの需要が大きく落ち込んでいます。

 全国平均の売上高は前年比で54%減少しました。特に東京では前年比で65%減少しています。これは、全国ハイヤー・タクシー連合会が実施した2020年4月1~15日のサンプリング調査の結果です。つまり、緊急事態宣言が発令された都市では、半分を割り込んで3~4割の売り上げしか得られていない状況です。

 現在タクシー業界は相反する立場の間で揺れ動いています。1つは、移動を担う「エッセンシャルワーカー」としての立場です。タクシーは公共交通機関ですから、社会を安定させるために稼働し続けなくてはなりません。官邸や国土交通省からも事業継続要請を受けています。

 もう1つは一般企業、そしてその従業員としての立場です。売り上げ、つまり利用者のニーズが3分の1まで落ち込んでいる状況では、歩合制であるタクシードライバーはたとえ稼働しても最低賃金を割り込んでしまうので、働かないほうがよいということになってしまいます。

 そこで、多くの会社で半分の車両を動かし、残り半分は休業させる稼働要員の調整を行っています。いくつも営業所がある日本交通では、営業所をA班とB班に分けて2週間おきにローテーションで稼働させて、休んでいるタクシードライバーには会社が休業手当を支給します。

「動くオフィス」、個室としての付加価値向上に投資

新型コロナの問題が落ち着いた後、またタクシー業界を立て直していく戦略についてお聞かせください。

 今は明確な戦略はありません。様々な取り組みを組み合わせて実践していくしかないと思っています。

 その中で考慮しておかなければならないことは、今後タクシーの位置づけが変わっていくのではないか、ということです。アフターコロナでは、移動そのものの総量が減る可能性があります。それでも移動の需要がゼロになるわけではありません。そこで何が起こるかというと、乗客の平均単価が上昇するのだと思います。

 スペースを同時に他者と共有しないタクシーは、公共交通機関の中で最も安全安心かつ便利な乗り物と言えます。タクシーは窓を開けて換気すると、約1分ですべての空気を入れ替えられるというデータがあります。乗客が触れる場所は限定的なので、毎回アルコール消毒することも容易です。日本交通では、席を区切るための透明なビニールやアクリル板といったセパレーターカーテンを、全車両に設置するべく既に発注しています。

 衛生面において電車やバスとの違いが際立つことで、より高い金額を払ってもタクシーを使うニーズが増える可能性があります。そのときのために、パーソナルな移動空間、また個別輸送機関としての価値を磨き上げておくことが重要だと考えています。

 タクシーなら、移動しながら仕事ができ、Zoomなどを使ってビデオ会議も可能です。つまり、「動くオフィス」と位置づけられます。