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各界のキーパーソンに新型コロナウイルスの影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。新型コロナウイルスのまん延によって、高密度な都市構造に疑問の声が上がるなかで、建築家の内藤廣氏は、ニーズが変われば「失敗する巨大開発が出てくる可能性がある」とみる。数々の都市再生事業に関わってきた内藤氏だからこそ見える、アフターコロナの建築と都市とは。(インタビューは2020年5月1日にオンラインで実施した。聞き手は島津 翔=日経クロステック)

新型コロナウイルス感染症が拡大したことにより、「高密度な都市」に疑問符が付きました。この流れをどう見ていますか。

 これからお話することは、漠然とした予想なので、当たるかどうか分かりません。まず従来の人口予測のデータでは、東京圏の人口は今後30年は変わらないとされている。この予測が新型コロナウイルスによって極端に減るかといえばそうじゃないでしょう。つまり、東京圏という意味で質問に答えるならば、感染症があってもそう変わらないと考えています。

内藤廣氏
内藤廣氏
1950年神奈川県生まれ。74年早稲田大学理工学部建築学科卒業。76年同大学大学院にて吉阪隆正に師事、修了。スペイン・マドリードのフェルナンド・イゲーラス建築設計事務所、菊竹清訓建築設計事務所を経て、81年内藤廣建築設計事務所設立。2001年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻助教授、02~11年同教授。10~11年同大学副学長。11年同大学名誉教授(写真:山田 愼二)
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 ただ、山手線の内側や周辺にこれだけ人や建物が高密度で集まるという都市構造は、ひょっとしたら新型コロナを契機にちょっと遠のくかもしれない。仕事がオンラインに切り替わっていくなかで、「なんで超高層のガラスの箱に入って仕事しなければならないのか」「なんで完全空調の密閉空間で過ごさなければならないのか」と考える人が増えれば、そこにブレーキがかかる気はしています。つまり、超高層を中心とした再開発そのものの是非に発展していくでしょう。

 なぜか。これまで再開発が一定程度うまく行っていたのは、超高層に対して「かっこいい」という憧れや、企業ブランドにつながる価値があったから。要するにそういう需要があったからですよ。当然ですが、良いと思われなければ値段は下がる。そうすると、デベロッパーのビジネスモデルは壊れますよね。プロジェクトファンディングは複雑そうに見えますが、初期投資と利回りという単純なものですから。床貸しの値段が下がれば、簡単に崩壊するはずです。

 この価格崩壊の流れに歯止めがかからないと、今、すでに動いている案件の中で、失敗する巨大開発が出てくる可能性がある。

 僕はもうだいぶ前から言ってるんだけど、新しいタイプのオフィスが出てくるように思う。具体的に言えば、東京近郊の緑が豊かなエリアに立つ3〜4階建ての建物。そこに入るのは超一流企業で、従業員はその近くに家を借りて、徒歩や自転車で通勤する。

 こういう企業が出てくると、ビジネスパーソンの意識はガラッと変わる。わざわざ満員電車に乗って密度の高い東京に出てくる意味が問い直される。そんな気がします。

シリコンバレーの米Apple本社のようなイメージでしょうか。

 それに近いかもしれませんね。

 都市間競争や都市再生というキーワードの下で、上海だって香港だってシンガポールだって、みんな超高層を競って建てた。それで少し慌てたところもあったと思うんです。東京はグローバルに見たら不動産が安いので、建てれば売れるみたいな状況でこれまでやってきた。それが、今は違うフェーズに入ったような気がします。