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政治家はもっと数学を知る必要がある

政治家はもっと数学を知る必要があると。

 政治家、特に政府閣僚の中に、もうちょっと数学的な思考ができる方がいてもよかったかなと感じます。これは国民全体の行く末の話なので、政府の指導者は、当然“次の一手”を考える必要があるわけです。

 企業経営者ならこれは理解できる話だと思います。会社の利益と雇用を守る必要がある経営者の方々は、常にアンテナを張り巡らせて未来予測をしているわけです。いつも数字とにらめっこして、フェルミ推定などの数学を使って、3か月後、半年後、1年後の経済情勢を読んでいます。常に数字を見て、数学を使って、計算をしながら次の一手を考える必要がある。この先読みできる体制が、今の日本政府に欠けていることだと思います。

 実は、台湾とドイツはそこが欠けていないのです。台湾は閣僚の方々がその分野の専門家で、当然今回も数学的なシミュレーションをやっていました。台湾の場合はSARSのときに大変な目に遭ってしまったので、そのときから準備していたのも良い方向に進められた理由でしょう。

 あとはドイツ。メルケル首相は物理学者で、数学を駆使して物事を考える方です。だからドイツの場合は、2020年1月から医療機関に多額の補助金を出して、医療器具の量産などの準備を始めました。まだドイツ国内に感染者のいなかった1月上旬という早期に、ドイツ政府は次の一手を打ったのです。

 こういった次の一手には、スマートフォンを使って濃厚接触者を追跡するなど、テクノロジーを活用している例もあります。これもやっぱり数学思考だと言えます。テクノロジーを理解している人がそれを使って、有効に感染者が広がらないような方策をとる。これが、今の日本にはできていません。科学技術立国はどこにいってしまったのか、と考えてしまいます。

 経済効率の観点から考えたとして、どのタイミングで外出制限しても「接触8割減」という内容は変わりません。ただ実施が遅れれば遅れるほど長期化してしまうわけです。そうすると、2倍の期間で経済活動を自粛するなら、当然影響も2倍、失われるGDPで2倍になるでしょう。もし2月末の時点でいきなり緊急事態宣言を出して、2週間の外出自粛をやったなら、日本は早期対応で乗り切ったと、世界からすごく褒められたと思います。

 別に高度な数理シミュレーションの数式を理解する必要はないですが、フェルミ推定のような単純な先読みだけでも、経営者並みに政治家がやれていれば、もう少し経済のダメージも少なくできたのではないかと私は思っています。

経済活動を止めた場合にも失われる命がある、という指摘がありますが、どのようにお考えでしょうか。

 私自身、その問題について考えていました。実際、講演会を管理している自分の会社が潰れそうなので。働いている人をクビにしないよう、緊急融資など様々な手配をしているところです。

 経済が止まると命が失われる、という問題には色々な人がデータを出しています。例えば、景気が悪化すると自殺する人の数が増えるという統計がよく引き合いに出されます。

 でも、それは平常時の話だと考えます。平常時は、確かにその法則は成り立ちます。それは、周りの人がそれなりにうまくいっているのに、ある程度の数の人だけが経済的にうまく立ち行かなくなる。その結果、社会から置いていかれてしまって、自殺に進んでしまうということはあると思います。

 ところが、現在のこの新型コロナは、全人類に降りかかってきている問題です。その場合は、「お金がない」という状況は、極端に言えば最低限食料を買うためのお金があればいい。それさえ確保していれば、その他のお金は周りの人も皆が払えないんです。社会全体の意識の問題ですが、そういう状況が到来しつつあるなら、自分が払えないことに対して強い負い目を持つ必要はありません。それが平常時とは大きく異なる点です。

 命か経済かという一般的な議論は、おそらく今の緊急時には当てはまりません。ところが、ずっと平常時のことばかり想定していたがために、緊急事態宣言を出すときちゅうちょしたわけです。それは緊急時と平常時の区別が、本当のところでついていなかったのではないかと思います。

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