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各界のキーパーソンに新型コロナウイルスの影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。ベストセラー『感染症の世界史』の著者である石弘之氏は、「感染症は環境問題」と考える。人類の都市化が、飛沫感染するインフルエンザやコロナウイルスの流行を招いたというわけだ。人類は、ウイルスといかに対峙すべきか。(インタビューは4月23日に実施した。聞き手は岡部 一詩=日経クロステック/日経FinTech)

『感染症の世界史』著者 石弘之氏
『感染症の世界史』著者 石弘之氏
1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問。96年より東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『地球環境報告』(岩波新書)、『名作の中の地球環境史』(岩波書店)、『鉄条網の世界史 (角川ソフィア文庫)』など。(写真:陶山勉)
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 20世紀はインフルエンザの時代でした。有名なスペイン風邪など、様々なタイプのインフルエンザウイルスが登場して猛威を振るった。21世紀はどうか。私はコロナウイルスの世紀になるんじゃないかとみています。「SARS(重症急性呼吸器症候群)」、「MERS(中東呼吸器症候群)」、そして今回の「新型コロナウイルス」。既に3回も流行を引き起こしている。

 コロナウイルスは約1万年前、この世に登場したとされています。人類が初めて存在に気付いたのは1960年代のこと。当時は毒性がそれほど強くなくて、風邪の原因にとどまっていました。ところが2002~2003年になって突如SARSが流行した。進化の過程で毒性が非常に強くなったわけです。

 中国の武漢に水準の高いウイルス研究所があります。SARSが起きたとき、同研究所の所長が中国全土のコウモリを徹底的に調べ上げました。結果、SARSと非常に似たウイルスを持っていて、恐らくコウモリが運び込んだものだろうとされました。

 実はこの調査で、SARSやMERS、今回の新型コロナなどとよく似た構造を持っていて、少し変異すれば人間に感染しかねないウイルスが50種類ほど見つかった。つまり予備軍ですね。21世紀がコロナの世紀になるという懸念はここから来ています。

人間が最適な環境を作った

 私はかねがね、感染症とは環境問題だと言っています。

 人類が都市というものを作り出した初期のころに流行したペストなどは、接触感染型の細菌です。ところが、もっと効率よく感染を広げられるウイルスが登場した。飛沫によって感染するインフルエンザです。

 20世紀になってインフルエンザが大流行した理由として人類の過密化が挙げられます。1900年初頭の都市化率は約2割。それが今は約55%と一気に都市化が進んだ。人間同士の距離が近くなればなるほど、爆発的に広がります。人間が最適な環境を作ってしまったわけですね。