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 新型コロナウイルス感染症の拡大で社会全体が疲弊した。「今後は社会のレジリエンス(回復力)をどう高めていくかに尽きる」と、医師で起業家のインテグリティ・ヘルスケア(東京・中央)武藤真祐会長は語る。そのために「我々は、これまで何も疑ってこなかった医療の常識や慣習、そして目を背けてきた命に関する議論をすべきだ」と提案する。(インタビューは2020年4月17日にオンラインで実施した。聞き手は高橋 厚妃=日経クロステック/日経デジタルヘルス)

武藤真祐(むとう・しんすけ)氏
武藤真祐(むとう・しんすけ)氏
東京大学医学部卒業後、同附属病院などで循環器内科医、宮内庁で侍医を務める。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2010年に医療法人社団鉄祐会の祐ホームクリニックを創設し、15年シンガポールで在宅医療事業を創業した。16年から現職。博士号(Ph.D.)と経営学修士(MBA)を保有(写真:加藤康)

社会のレジリエンス向上がアフターコロナで重要になると主張していますね。レジリエンスは人や組織が厳しい環境に直面した後、回復したり適応したりすることを指すことが多いです。

 今後、いつ別のパンデミック(世界的な大流行)や災害が発生してもおかしくありません。今回の経験を生かして次に備えることが必要だと思うのです。そのためにはまず、今回の新型コロナウイルスの流行でダメージを受けた社会が、レジリエンスを高めることが必須だと思います。

 レジリエンスを高めるには大きく2つの議論が必要ではないでしょうか。1つは医療の常識や慣習、もう1つは命の重さについてです。新型コロナウイルスの感染拡大で、これまでベストと考えられてきた医療が提供できない状況になりました。それは医療の常識が覆されたといっても過言ではありません。

 覆された常識とは、医師にとっては「患者を月1回くらいの頻度で対面診療する」ことなどです。一方患者側は、「医者に直接会って話を聞かないと不安に感じる」といったことが挙げられるでしょう。

 この常識が覆されたことで、新型コロナの特例措置もあって、オンラインや電話による診療を始めた病院が増えてきました。一方で患者側は、新型コロナの影響で受診を控える動きが広がっています。こうした「非常時」の医療を体験した医師と患者の中には「アフターコロナもこのままの医療体制でいいかもしれない」と思う人がでてくると思うのです。