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 各界のキーパーソンに新型コロナウイルス感染拡大の影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。多数の企業のコンサルティングを手掛けるボストン コンサルティング グループ 日本共同代表の杉田浩章氏は、この危機の状況で同一業界でも影響の大小があることについて、「差は3点から生まれている」と語った。(インタビューは2020年4月27日にオンラインで実施した。聞き手は島津 翔=日経クロステック)

数多くの企業のコンサルティングを手掛けてきて、新型コロナウイルス感染拡大によって浮上した、企業にとっての今後のキーワードは何だと考えていますか。

 「レジリエンス(回復力)」だと思っています。先の見えなさの度合いがこれまでよりも大きくなり、自社に対するインパクトが良い方にも悪い方にも急激に起こるようになった。見通しにくさが増す中で、企業は、想定外のショックに対する耐性をある程度持っておく必要があります。

JTBを経て1994年にBCGに入社。消費財・消費者向けサービス、メディア、通信、自動車、産業財など広範な業界の企業に対して様々な支援を行っている。特に、トランスフォーメーション、デジタライゼーション、グローバル化戦略、コーポレート・ガバナンス、グループマネジメントに関わる支援経験が豊富。国連世界食糧計画WFP協会理事(写真:杉田 浩章)
JTBを経て1994年にBCGに入社。消費財・消費者向けサービス、メディア、通信、自動車、産業財など広範な業界の企業に対して様々な支援を行っている。特に、トランスフォーメーション、デジタライゼーション、グローバル化戦略、コーポレート・ガバナンス、グループマネジメントに関わる支援経験が豊富。国連世界食糧計画WFP協会理事(写真:杉田 浩章)

 もう1つは、時間軸が変わったことです。思いもよらぬスピードで危機やチャンスがやってくる。今までのスピードでは到底間に合いません。戦略に加えて、その戦略をどうスピーディーに実行できるかという観点も考えなければなりません。例えば政府が10万円の給付を決めました。その政策の是非は置いておくとしても、批判にさらされているのはスピードの話ですよね。「決めたのになぜすぐできないんだ」と。危機の状況ではこの「時間軸の問題」が非常に大事になってくる。

レジリエンスは幅の広い言葉ですが、コロナ禍の状況ではどういった意味で捉えればよいのでしょうか。

 我々は「アダプティブネス(順応性)」という言葉を使っています。起き得る環境変化をぼんやりでも予測して、「将来こんなことが起こり得る」という方向に対し、自社が柔軟に対応できるように準備しておくということ。もう1つは、先ほど時間軸という表現をしましたが、「アジリティー(敏しょう性)」でしょうね。何かが起きたときにすぐに対応できる体質にしておく、ということです。

 適応性と敏しょう性を企業体質として備えるためには、保有資産を最小限にしておく必要があるでしょう。これを「アセットライト」といいますが、固定費構造を把握して、損益分岐点を変化させていかないと、危機には耐えられない。

 今、我々がクライアント企業と日々、議論している中でも、この固定費構造をどう抜本的に見直すか、というテーマはとても多いです。これまでも「固定費を徐々に下げていこう」という議論は当然していましたが、そんなスピード感ではなく、一気に引き下げるためにはどんな戦略が必要なのか。柔軟性にかける事業領域、そして事業ポートフォリオをどう見直していくのか。

 特に、製造業は設備などが非常に重く、かつ労働集約的で総人件費も高いケースが多い。こういう構造をどう見直していくかは今後、急激に議論が進むとみています。