各界のキーパーソンに新型コロナウイルスの影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。国内有料会員が110万人を超えるリクルートのオンライン学習アプリ「スタディサプリ」。一斉休校という特需を受けて会員数は二次曲線で伸長しているという。スタディサプリを新規事業としてゼロから立ち上げ、現在、教育事業の責任者を務める山口文洋・執行役員が、アフターコロナのオンライン教育を語る。(聞き手は島津 翔=日経クロステック)
山口さんはリクルート「スタディサプリ」の生みの親でいらっしゃいます。まずは単刀直入に、新型コロナウイルスの影響でオンライン教育にどのような変化がありましたか。
ビフォーコロナでは、スタディサプリは足掛け7年間にわたって「啓蒙」の時代だったと認識しています。オンライン教育を個人へ学校へ啓蒙し、2019年時点で有料会員が世界で127万人程度、国内だけで110万人規模まで成長しました。

山口 文洋氏
リクルート 執行役員 プロダクト本部 教育・学習担当 リクルートマーケティングパートナーズ 執行役員 まなび事業統括本部長
2006年リクルート(現・リクルートホールディングス)入社。進学事業本部の事業戦略・統括を担当し、2011年の新規事業プランコンテスト「New RING」でグランプリを受賞し、「受験サプリ」を立ち上げる。2012年10月、『ゼクシィ』『スタディサプリ(旧受験サプリ)』『カーセンサー』を扱うリクルートマーケティングパートナーズの執行役員に就任。2015年4月、リクルートホールディングス執行役員及びリクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長に就任。2018年4月、リクルート執行役員に就任(現任)(写真:深澤 明)
啓蒙はある程度進みましたが、キャズム(普及手前の溝)を超えるところまでは行っていなかったという見方をしています。これまでスタディサプリを採用してくださった学校も、リアルが中心で、宿題などだけをオンラインでという使い方が一般的でした。
それが、今回の新型コロナウイルスによる一斉休校などが、キャズムを超える契機になった。
これまでキャズムを阻んでいる壁は3つありました。1つ目はインフラの壁。Wi-Fiが飛んでいない学校も多かった。2つ目は先生の壁。ITリテラシーの高い先生ばかりではなく、テクノロジーを手段として捉えないケースもありました。3つ目は生徒の壁。多くの生徒にとって、自らパソコンやスマートフォンの画面に向かって勉強を始めるという行為のハードルが高かった。
その3つの壁を、新型コロナが強制的に崩しました。
キャズムを超えるかもしれないという実感は、ユーザーの裾野が広がったという点だけに起因しているものではありません。明らかに、オンライン教育の使い方がもう一段、進んでいます。