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各界のキーパーソンに新型コロナウイルス感染拡大の影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。金融業界のフューチャリストで、デジタルバンクの創業者でもあるブレット・キング(Brett King)氏は、新型コロナによって「資本主義の限界が明らかになった」と喝破する。米国で失業者があふれるなか、資本主義のリフォームが必要と説く。(インタビューは日本時間2020年4月21日にオンラインで実施した。聞き手は岡部 一詩=日経クロステック/日経FinTech)

米ムーブン(Moven)創業者 ブレット・キング(Brett King)氏
米ムーブン(Moven)創業者 ブレット・キング(Brett King)氏
モバイルバンキングサービスを手掛ける米ムーブンの創業者であり、『Bank 4.0』などを執筆したベストセラー作家でもある。米メディア「American Banker」が選出する「イノベーター・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされるなど、金融分野で世界的な影響力を持つ。(写真:陶山勉)
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 コロナ禍において、銀行業務を維持する唯一の方法はデジタルを活用することだ。世界中で多くの銀行支店が閉鎖に追い込まれた。インターネットが登場して25年、あらゆるセクターがデジタル化の道を歩んできたなかで、銀行業界のペースは遅かった。現在、多くの銀行が支店や対面取引といった既存のやり方を改め、顧客とのエンゲージメントを高めるための追加施策を講じている。これは、マクロなトレンドと言えるだろう。

 日本では外出自粛時においても、全店が営業を続けていると聞いた。これは、一般的なアプローチではない。日本の銀行が、デジタル技術によって顧客をサポートする準備を整えていないことを意味している。邦銀の株価は、このリテール向けネットワークを巡る問題を解決するまで苦戦するのではないか。マーケットは間違いなく、デジタルの採用を加速させるために圧力をかけてくるだろう。

 日本はFinTechに対して多大な関心を払ってきた。特に、暗号資産(仮想通貨)などについては非常に進歩的だ。一方で、ネットバンクがいくつもあるのに、他国のようにチャレンジャーバンクが成長しているとは聞かない。規制の観点から、適切な解決策を見つけ出せるかが重要だ。

 今後、支店の在り方は大きく変わる。もともと米国では、約35%の銀行支店が利益を出せていない。新型コロナの影響が続けば続くほど、収益力の低い支店は閉鎖を余儀なくされる。欧米の支店数は2025年までに、2008年に発生した金融危機以前の水準と比べて約25~30%減少するとみている。

 もちろん、支店が消滅するわけではない。大手銀行は東京や大阪といった主要都市に、「Apple Store」のような支店を構えるようになると予想している。テクノロジーを売りにしたショールームのような機能特化型の支店だ。ただし、それほど多くの支店は必要ない。今回のコロナ禍は、この傾向を世界中に示している。

 支店の問題にもつながるが、マーケットは今後、新規顧客の獲得コストに注目するだろう。日本、ドイツ、米国の銀行は、口座を開設してもらうために300ドルあるいは1500ドルといったコストをかけている。しかし、米スクエア(Square)はわずか20ドル。「FinTech企業のように安くできないのはなぜか」と問い始めるだろう。

 在宅勤務への備えも重要だ。新型コロナの影響が12~18カ月続いた場合にどうするか。自宅作業とオフィス作業を素早く切り替えられる体制を整えなければならない。米JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)でさえ、10万人以上の従業員向けに慌てて「Zoom」の設定をしなければならなかった。これまでセキュアな銀行オフィスで業務をする必要があったため、自宅での業務を許すメカニズムがなかった。しかし新型コロナは、働き方のアップデートをも迫ってくる。