各界のキーパーソンに新型コロナウイルスの影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏は、14世紀に大流行したペストがルネサンスや宗教改革のきっかけとなり、「人類史が前に進んだ」と指摘し、「アフターコロナでは、生き方改革が始まる」と説く。歴史を参照することで、今、我々が考えなければならない問題の骨格が見えてくる。(インタビューは2020年4月23日にオンラインで実施した。聞き手は島津 翔=日経クロステック)
出口さんは新型コロナウイルスの感染拡大を「グローバル化の副産物」とおっしゃっています。
それはすごく簡単な話です。ウイルスは人に乗って動くんですよ。そうでしょう? 自分では動けないから、人や動物がウイルスの運び屋になるんです。人が交易すれば、ウイルスも世界中を動く。それだけの話です。
ペストも貿易ルートを通って拡大しました。
おっしゃる通りです。(元の初代皇帝となった)フビライ・ハンは交易を大事にして山賊や海賊を全てつぶした。それでマルコ・ポーロと呼ばれる一般の市民が欧州から大都まで行けるようになったんです。フビライはグローバリゼーションを追求したとも言える。これはとても素晴らしいことで、社会文明が大幅に進歩しました。
ただ、たまたま世界が寒冷期を迎えて人間の体力が落ちたことで、ペストがあっという間にはやった。象徴的なのは、おっしゃった通りペストがクリミア半島からイタリアに上陸したという点です。これはモンゴル高原から続く「草原の道」ですよね。陸のメインルートでした。モンゴルから馬に乗ってクリミア半島まで来て、そこで荷物を積み替えて黒海経由で地中海に出る。まさにこの貿易ルートに乗ってペストがやってきたわけです。
今、「副産物」と言われましたが、パンデミックはグローバリゼーションの「ダークサイド」とも言えるわけです。
でも、物事には必ずダークサイドがあります。負の側面だけを消し去ることはなかなかできないわけです。最も分かりやすいのは自動車ですよね。自動車は人々の陸路の移動を自由にした。画期的でした。ただ、自動車にも「凶器になる」というダークサイドがある。世界で毎年100万人以上が交通事故で亡くなっています。でも、「毎年これだけの人が事故死するから自動車を廃止しよう」という動きにはならない。恩恵を受けながらダークサイドを小さくしようという方向ですよね。
新型コロナも同じです。人が交易するとまん延するから自由貿易を止めようなんてばかな話はない。
ウイルスは地球上に何十億年も住んでいるので、ホモ・サピエンスとは歴史の長さが違う。自然現象のようなものと捉えたほうがいいんですよ。今、世界中を大きな台風が襲っていると思えばいい。巨大台風が来たら、家にいるしかないでしょう。過ぎるのをじっと待つ以外に方法はないんです。