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「今こそ『ボッカチオ』を読んでほしい」

歴史の視点からパンデミックとどう向き合うべきかを聞かせてください。

 例えばペストの話をしましょう。ペストの時代に書かれたのが、ボッカチオの「デカメロン」(編集部注:ペストが猛威を振るったフィレンツェで、郊外に逃げた10人の男女の物語。10日間をそれぞれの視点で語る100の物語から成る)でした。これって「ステイホーム」の物語なんですよね。みんな逃げて別荘に隠れて過ごしていたという話ですから。

 僕は今、みんなに「ボッカチオを読んでほしい」と言って回っています。なぜかと言えば、デカメロンの本質は「こんなときにふさぎ込んでいてもしょうがないよね」というメッセージだから。物語中では、登場人物が面白おかしいことを次々にしゃべっていくわけです。こういうときこそ、笑いや余裕、ユーモアが大事なんだ、と。

 そして、このマインドがルネサンスを生む。

ペストは「メメント・モリ(死を忘れるなかれ)」という考え方にもつながります。

 その通りです。「こんなにペストがはやったのは神様にきちんと祈らなかったからだ」という発想を生み、メメント・モリが広がっていきます。

 この広がりは何を生んだと思いますか? 宗教改革です。きちんと祈るために原点に戻って聖書を読んだ。皆、聖書を読んで、ローマ教会がぜいたくな服を着ているのはおかしいということに気づいた。これが改革を引き起こす原動力になりました。

 つまり、ペストが生んだものは2つあった。1つは、こんな悲惨な状況でも神様は助けてくれないから、人間を頼ろう、楽しもうという気持ちがデカメロンを生み、ルネサンスにつながっていく。もう1つは、祈りが足りなかったという思いが生んだ宗教改革でした。どちらも、神の呪縛から人間を解放する方向に働き、人類史が前に進んだわけです。