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 各界のキーパーソンに新型コロナウイルス感染拡大の影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。経済産業省製造産業局参事官の中野剛志氏は新常態(ニューノーマル)を「不確実性を抱えた社会だ」と指摘する。サプライチェーンの寸断などが世界中で問題となった製造業において、企業には変化に対応する力が必要になると説く。(インタビューは4月22日にオンラインで実施した。聞き手は坂本 曜平=日経クロステック/日経アーキテクチュア)

中野 剛志(なかの・たけし)
中野 剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。英エディンバラ大学にて政治思想を専攻し2005年に博士号を取得。19年から経済産業省製造産業局参事官(デジタルトランスフォーメーション・イノベーション担当)、ものづくり政策審議室長(写真:稲垣 宗彦)
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 新型コロナウイルスの感染拡大が問題となる以前から、「不確実性」の高まる現象に注目していました。近年、米中貿易摩擦やブレグジット、中東の地政学リスクなど世界経済に影響を与えかねない問題や自然災害などが頻繁に発生しています。インターネットやスマートフォン、IoT(インターネット・オブ・シングス)、AI(人工知能)など、世の中を大きく変えるイノベーションの発展も不確実性の高い現象と言えます。

 要するに、不確実性を抱えた社会が新常態(ニューノーマル)の姿だということです。新型コロナが収束したとしても、不確実性の高い現象は次から次へと発生するでしょう。不確実性の時代に合わせて、製造業は考えを変える必要があります。企業が競争力を高めるためには、「ダイナミックケイパビリティー(不測の事態に対応して自己変革する能力)」を重視した態勢への変化が不可欠になります。

 ダイナミックケイパビリティという言葉以外にも「オーディナリーケイパビリティー(通常能力)」という言葉があります。企業は同じ製品を同じ企業に売る場合に、効率よく売るためや効率を高めるためのオペレーションをしています。極端に言えば、効率性を高めるために在庫を持たないということが必要になります。

 しかし、今回のサプライチェーンの寸断が典型的な例になるのですが、不確実性が高くなると在庫を持っている企業、要するに非効率な企業の方が生き残れます。つまり、ダイナミックケイパビリティーを高めるためには在庫を持っていた方がよくて、オーディナリーケイパビリティーを高めるためには在庫がない方がいいとなります。

 従って「ダイナミックケイパビリティーを身に付けよう」ということは、口で言うほど簡単なことではありません。効率性や生産性の向上をある程度犠牲にして、利益性を高めるのではなく、利益率が低くてもいいから余裕を持って「変化が起きても対応できるようにマージンを取っておこう」と考えなくてはいけません。