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 新型コロナウイルスで大打撃を受けた世界の製造業。アフターコロナ時代では、ものづくりのやり方を大きく変える必要がある。サプライチェーン研究のトップである、東京大学大学院経済学研究科教授で東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏は、「うまく対策を講じられれば、日本の製造業が世界における存在感を高めるチャンスになるだろう」と指摘する。(インタビューは2020年4月29日にオンラインで実施した。聞き手は東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

東京大学大学院経済学研究科教授 兼 東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏
東京大学大学院経済学研究科教授 兼 東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏
1979年東京大学経済学部卒業。同年三菱総合研究所入社。89年ハーバード大学ビジネススクール博士号取得(D.B.A.)。97年ハーバード大学上級研究員、98年より東京大学大学院経済学研究科教授、2004年より東京大学ものづくり経営研究センター長。(写真:本人提供)
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サプライチェーンにおいて、アフターコロナの社会を象徴するキーワードというと何になるでしょうか。

 まだ新型コロナウイルスの実態が判明していないので、現時点で正確な予測はできません。世界規模での人の移動が制限されるような感染症の流行がどんな周期でやってくるのか、複数のシナリオを考えるしかないでしょう。もしかしたら十数年に一度起こる程度かもしれません。しかし、もっと頻繁に数年ごと、あるいは毎年起こる可能性もあるのです。

 今後の状況に応じて、企業の対応、グローバルにおける生産立地やサプライチェーン(供給網)の在り方が変わるかもしれません。あらゆる可能性に備えた対応策を、今から周到に練っておくことが必要です。

 特に、目先の短期的な緊急対応だけでは足りません。その先のアフターコロナにおける各国の産業競争力や産業構造、グローバル・サプライチェーンの地理的配置の変化などを今から考慮しておく必要があります。

アフターコロナの社会では、今後どのような生産体制がグローバル、ローカルで生まれるのでしょうか。

 ポイントとなるのは「柔軟性」です。世界中で感染が拡大している非常時と、そうでない平時が、どんな周期で繰り返されるかによって、あるべき生産体制は異なります。

 より具体的には、平時と非常時(感染拡大時)がある頻度で繰り返されると仮定して、異なる生産体制を用意し、迅速な切り替えを可能にする柔軟性を確保しておくということです。

 アフターコロナでは、2つの要素のバランスを保つことが重要だと考えます。大競争に負けないための「国際競争力(コンペティティブネス)」と、大災害に負けないための「災害頑健性(ロバストネス)」です。

 すなわち、平時にはサプライチェーンのコンペティティブネス重視、緊急時にはロバストネス重視とし、平時と緊急時でシステムを柔軟に切り替えるのです。これが、災害が周期的にやってくるかもしれない時代にふさわしい生産体制だと考えます。

 最近、サプライチェーンの維持のために、すべてを国内生産にしようという話がありますが、私はその意見には反対です。コロナの問題は、時間はかかるかもしれませんが、いずれ終息はするでしょう。つまり、期間限定の問題です。一方、グローバル競争は、毎日、ずっと続く戦いです。高コストの日本にすべての生産を戻すと言うことは競争力を失うことになります。ただし、コロナのような感染拡大の問題はまた発生するかも知れない。だから、すばやく生産体制を入れ替えられる柔軟性が必要だと考えるのです。