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 各界のキーパーソンに新型コロナウイルス感染拡大の影響や、新しい社会へのヒントを聞く「私たちの『アフターコロナ』」。社会学者で慶應義塾大学教授の小熊英二氏は、「格差拡大と大幅な学力低下の危険がある」と指摘する。1970年代のオイルショックや2008年のリーマン・ショックとは異なり、中小・零細企業に大きなダメージが生じたことによる日本社会の構造への影響を語る。(インタビューは2020年4月28日にオンラインで実施した。聞き手は坂本 曜平=日経クロステック/日経アーキテクチュア)

小熊 英二(おぐま・えいじ)
小熊 英二(おぐま・えいじ)
1962年東京都生まれ。東京大学農学部卒。出版社勤務を経て、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2007年から慶應義塾大学総合政策学部教授(写真:迫 和義)
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 新型コロナウイルス収束後は、従来あったトレンドが約30年早く進むのではないかと感じています。例えば、リモートワークの導入が進むという動きは今に始まったことではありません。これまで遅れていた動きが早まるというわけです。

 社会が大きな衝撃に見舞われると、たいていの場合は弱い部分が沈み、格差が開きます。私が調査した東日本大震災後の三陸地方もそうでした。しかし、大きな衝撃に見舞われたからと言って、一夜にして新たな構造が生まれるわけではありません。多くの場合は強いものが勝って、弱いものが負けるといった従来構造のままトレンドが早く進みます。

 日本は中小・零細企業や自営業が多く存在し、それで安定を保っていた社会です。1970年代のオイルショックや、2008年のリーマン・ショックの時にダメージを被ったのは大企業が中心でした。1970年代に失業率が上がらなかったのは、サービス業などの中小・零細企業が雇用を吸収したためです。しかし、今回はこの逆の形になりますから、ダメージはより大きいかもしれません。

 この影響がどのくらい続くかにもよりますが、キャッシュを持っていない企業から倒産していくか、解雇するかのどちらかになる。米国の場合は解雇が進んで、日本の場合は中小・零細企業から倒産していくという流れに違いがあったとしても、キャッシュを持っている企業が耐え抜いて、そうでない企業が倒れていくという構図は変わらないと思います。

 別の角度から言えば、護送船団方式で残っていた「弱い船」が、かなり沈没する形になる可能性があります。「そうなれば効率が良くなる」と考える人がいるかもしれませんが、そんなに甘い話ではないでしょう。

 もともと大企業の正社員は就業者の3割弱ですし、優良な中小企業がそれほど多いわけでもない。「不効率だけれども失業が少ない」というのが日本社会の形でしたから、それがどう変わるかです。