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 新型コロナウイルス感染拡大による急速なリモート社会の到来で、サイバー空間とフィジカル空間の融合が進む。ただ、最大の課題はこれを実現する以前にあり、それは技術の問題ではないと情報通信研究機構(NICT)理事長の徳田英幸氏は指摘する。(インタビューは2020年4月27日にオンラインで実施した。聞き手は東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

情報通信研究機構(NICT)理事長の徳田英幸氏
情報通信研究機構(NICT)理事長の徳田英幸氏
東京都出身、67歳。1983年カナダ・ウオータールー大学大学院計算機科学科博士課程修了(Ph.D. in Computer Science)。96年慶應義塾大学環境情報学部教授、97年慶應義塾常任理事、2018年慶應義塾大学名誉教授。17年より情報通信研究機構(NICT)理事長に就任。(写真:NICT、以下同)
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アフターコロナ時代、どんな社会がやってくるとお考えでしょうか。

 アフターコロナで訪れるのは「サイバー・フィジカル・コンバージェンス社会」でしょう。人々がサイバー空間とフィジカル空間を意識しながら、それらが融合した空間で生活する社会です。

 もともと新型コロナ禍が起こる前から、テレワークやオンライン診療、遠隔授業など、遠隔で何かを実施するという社会の流れがあり、生活スタイルが変わろうとしていました。国が「Society 5.0」という言葉を使って推進しようとしていたものです。新型コロナ対策が、その流れを一気に加速させたと思います。

アフターコロナの社会は、Society 5.0が実現した、少し先の未来の先取りになるのでしょうか。

 そうですね。今までは、ほとんどの人がサイバー空間での生活とフィジカル空間での生活という区別を意識していなかった。でも現在は「何でもリモート」な社会が好きか嫌いかに関係なく、皆が変化を強制的に迫られて、両者の区別を意識し始めたわけです。この意識の変化が、社会を変えていくでしょう。

 新しいアフターコロナ社会では、1964年の東京五輪で高速道路を整備したように、この新しい意識変化に合わせた、新しいICTインフラを整備する必要があります。

 ただ、今回の新型コロナによって、技術開発の問題ではない古くて新しい問題があぶり出されました。それは、ICTリテラシーの問題です。

 新型コロナの影響で、小さな飲食店がテークアウトやデリバリーへ対応し始めたケースも多いでしょう。でも、それができているのは先進的なオーナーや店員がいる店舗であって、多くの店舗は簡単には対応できません。ホームページやSNSなどインターネットへ情報を公開する手段を持たず、ICTリテラシーが不足しているからです。これまでフィジカル空間で看板を出したりチラシを配ったりして、集客をしてきたわけですが、サイバー空間でしか認知を得る方法がない一方、ここに発信する手段を持たない状況では、社会から存在を認知されなくなってしまうかもしれません。

 窓口がインターネット上に限定されていくことで、社会的に埋没していくという例は、中小企業でも同じでしょう。急に社会を変えようとしても、付いてこられない人や組織が大勢います。ここが最大の課題だったといえます。

 ICTインフラや端末の格差もみえてきました。先ほどの店舗もそうですが、今の社会人や学生の多くも自宅に光回線を引いておらず、スマートフォンのテザリングや「ポケットWi-Fi」しかインターネットへの接続手段を持っていません。しかも、自宅で使用可能なパソコンを持たない人も多いのです。つまり、いくらテレワークやオンライン授業などのシステムが普及しても、自宅環境が対応していないという場合があるわけです。

 ちなみに、リモート社会になったことで、ビデオ会議やオンライン授業による通信トラフィックが増加し、帯域を圧迫されているはずですが、ネットワークが止まるということはない。これまで整備されてきた日本のブロードバンド環境が良いことを示しています。