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新型コロナウイルス対策として2020年春、多く企業が社員を在宅勤務に切り替えた。三井不動産は2020年春の緊急事態宣言の発令中、社員の9割以上が在宅勤務になった。ペーパーレスや印鑑レスが可能な基幹システムを活用したり、VPN装置の同時接続数を増強したりすることで、業務を円滑に進めることができた。

 テクノロジーを活用し、不動産業そのもののイノベーションを進めていこう――。このような目標を掲げ、目標達成の一環として2016年ごろから場所にとらわれず働けるICT(情報通信技術)環境の整備を進めてきたのが三井不動産だ。オフィスビルや商業施設、物流施設に加えて、イノベーション向け拠点「BASE Q」や、シェアオフィスやレンタルオフィス「ワークスタイリング」などの不動産関連ソリューション事業も幅広く手掛けている。

 三井不動産が社員約1600人を対象に、新型コロナウイルス対策としての在宅勤務を始めたのは2020年3月だ。同年4月から5月にかけて政府は緊急事態宣言を発令したが、「これまでICT環境の整備を進めてきたことで、緊急事態宣言下では全社員の90%以上が在宅で勤務を続けることができた」と、三井不動産の松井健DX本部DX一部部長は明かす。7月下旬からは在宅勤務率70%以上をめどに継続している。

オンラインでつながる在宅勤務中の三井不動産の社員
オンラインでつながる在宅勤務中の三井不動産の社員
(出所:三井不動産、以下同じ)
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 三井不動産がこれまで整備してきた主なICT環境は「基幹システム」「端末」「ネットワーク」「Web会議」「社内電話」の5つである。

新基幹システムでペーパーレスと印鑑レスを実現

 いち早く取り組んだのが基幹システムのフルクラウド化だ。2016年から、それまで稼働させていた決裁システムと会計システムをクラウドへ統合して全面刷新するプロジェクトを始めた。社内の様々な部門から80人ほどの社員が改革プロジェクトチームを結成。社内業務の本質を議論したうえで業務プロセスを見直していき、クラウドの新基幹システムを導入した。

三井不動産の主なICT環境整備(場所にとらわれない働き方への取り組み、~2019年)
整備対象概要
基幹システム決裁と会計の2システムを全面刷新してクラウド新基幹システムを導入。ペーパーレス化と印鑑レス化を実現
端末全社員にカメラを搭載したノートパソコンを配布。社外で働くことが多い社員に向けてはSIMカードを配布
ネットワーク社外から社内ネットワークへアクセスできるようVPN(仮想私設網)を整備
Web会議Web会議サービスを複数種類、導入。管理職向け研修の実施やサポートデスクの設置などを通して活用を支援
社内電話固定電話に代わり、社員が持つスマートフォンを社内電話として利用できるようにした。Web電話帳も導入

 新基幹システムは、会計系と決裁系からなる。会計系は欧州SAPの「SAP S/4 HANA」とSAPグループの米コンカー・テクノロジーズ(Concur Technologies)の経費精算クラウド「Concur Expense」を組み合わせて開発した。もう一方の決裁系はNTTデータイントラマートの「intra-mart」を、米マイクロソフト(Microsoft)のクラウドサービス「Microsoft Azure」上で稼働させている。この新基幹システムは2019年4月から運用を始めた。

 三井不動産は新型コロナウイルス対策としての在宅勤務を、新基幹システム稼働後1年ほどたってから始めた。松井部長は「新基幹システムを導入していたことが、在宅勤務を大規模に始めるうえでも大変役立った」と話す。

 新型コロナ対策を始める前、新基幹システムを利用することですでに会計などの業務量を従来よりも3割程度減らす成果を得ていた。在宅勤務を始めるに当たっては、「新基幹システムの導入を機に、決裁処理のペーパーレス化や、関連して紙文書への押印作業をなくす印鑑レス化などを進めていた。こうした取り組みがコロナ禍でも威力を発揮した」と谷本文音DX本部DX一部DXグループ技術副主事は説明する。

 具体的には、決裁処理のペーパーレス化をすることで、伝票などの紙文書を提出したり、提出された伝票を承認したりするために出社する必要がなくなった。承認作業などはスマートフォンからできるようにもなっており、在宅でも決裁処理を進められたのだ。

 取引先から届く請求書も、紙ではなく電子ファイルでもらう動きも進んでいる。紙の請求書だと「請求書が届いていることを確認する」「届いた請求書を複合機などでスキャンして電子化する」といった出社しての業務が必要だった。取引先に協力してもらうことで「紙文書の確認などのために必要だった出社の機会を著しく減らせている」(谷本技術副主事)。

三井不動産の新基幹システムが備える電子印影機能の画面例。システム上で機能を使うと(左)、社外向けの文書ファイルに印影などが付与される(右)
三井不動産の新基幹システムが備える電子印影機能の画面例。システム上で機能を使うと(左)、社外向けの文書ファイルに印影などが付与される(右)
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 一方で、取引先に送る発注書などについては押印の必要がある。これについては、取引先に了解を得たうえで、新基幹システムが備える機能を使って、発注書などの文書ファイルに電子的に印影を付与して取引先へ送信。出社不要で処理ができるようにしている。