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新型コロナウイルス対策として2020年春、多くの企業が社員を在宅勤務に切り替えた。化粧品メーカーのランクアップは全社員の8割が女性、そのうち半分が育児をこなすママ社員だ。社員が育児と仕事を両立できるような時間管理制度を導入したり、Web会議サービスを様々な用途で活用したりして、社員が在宅勤務に移行しても業務を円滑に進められるようにしている。

 全社員100人のうち80人が女性。女性社員のうち40人は仕事と育児を両立しているママ社員――。こんな社員構成で化粧品ブランド「マナラ化粧品」を展開しているのが、化粧品メーカー、ランクアップだ。肌が温かく感じる成分と美容液の成分でメークを落とすクレンジング製品「マナラ ホットクレンジングゲル」や、30秒程度でベースとなるメークを済ませられるようにした「マナラ BBリキッドバー」などを手掛ける。

 2005年創業のランクアップは「女性社員に子供がいても働ける会社」を目指して様々な施策を展開してきた。具体的には「手順が決まった仕事にはシステムを導入して効率化を図る」「物流などの業務でアウトソーシングサービスを活用する」「毎月業務の棚卸しを実施して無駄を省いたり、社員の残業時間をチェックしたりする」などの取り組みだ。

在宅勤務中のランクアップの社員
在宅勤務中のランクアップの社員
(出所:ランクアップ、以下同じ)
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 一連の施策で社員は効率よく働けるようになったり、新製品の開発に専念したりできるようになった。その結果、社員のほとんどは残業せずに午後5時に帰宅する一方、2019年までの14年間、連続して売上高が前年を上回る業績を達成している。

 残業する社員がほとんどいないため、育児で定時に帰る必要がある社員も「1人だけ早く帰るのは周囲に申し訳ない」などといった気兼ねをすることなく、働き続けられる。さらに一定の年齢以下の子供を持つ社員が1日6時間で勤務を切り上げられる時短勤務制度なども充実させることで、出産を経験した女性社員がほぼ100%、復職する成果も得ている。

 在宅勤務制度についてもランクアップはこれまで、「一般の社員は月2回まで、管理職は月4回まで」といった上限を設けて運用してきた。IT面でも社外から社内ネットワークにアクセスできるようVPN(仮想私設網)やビジネスチャットなどを導入してきた。

時間帯を選んで働ける「スーパーフレックス制度」を導入

 ランクアップが新型コロナウイルス対策として在宅勤務を始めたのは2020年2月初めからだ。国内での感染はまだ拡大していなかった時期だったが、「東京・銀座の本社と自宅を行き来する通勤時に万が一、社員が新型コロナウイルスに感染すれば、家族にも影響が及んでしまう懸念の声が多く上がっていた。社員の感染で、顧客にも心配が及ぶ恐れがあると考えて、早い段階から対策を講じることにした」と同社の岩崎裕美子社長は説明する。

 社員は基本的に自宅などテレワークで勤務をすることにした。出社の必要がある社員は上司の許可を得たうえで、出社時はできるだけ短い時間、勤務するよう求めた。出社や帰宅の時間帯も決めて、通勤時の混雑を避ける工夫も凝らした。出社勤務とテレワークを1日の間で組み合わせる働き方も認めることで、「出社して4時間働き、帰宅して4時間働く」といったハイブリッド勤務を実践する社員も増えているという。

 ランクアップでは2020年2月よりも前に、社員全員で一斉に在宅勤務をしたことはなかった。「2020年2月以降は、全員でテレワークをまず始めてみて、課題が出てきたら解決していくことにした」と岩崎社長は話す。具体的には仕事の進捗状況に関する課題や、仕事と家庭の両立にまつわる課題が見えてきた。

 仕事の進捗状況についての課題とは、「各社員がどんな仕事に取り組んでいてどこまで進めているのかがつかみづらい」というものだった。全員が出社しているときには各社員の仕事の進捗はすぐ本人に確認できたが、在宅勤務になるとコミュニケーションをすぐ取ることは容易ではなくなる。

 この課題を解決するため、全社員が「アクションプランシート」を作成することにした。日ごとや週ごとに取り組む内容をExcelなどのファイルに書き出して、上司と共有。進捗を確認していくようにした。書き出す仕事も「重要だが緊急ではない、やるべき仕事」を書き出すようにしている。「目の前の仕事をこなしていたら、重要な仕事の存在を忘れてしまった」といった状況を未然に防げるわけだ。

ランクアップが新型コロナウイルス対策として在宅勤務を進める中で作成することにしたアクションプランシート
ランクアップが新型コロナウイルス対策として在宅勤務を進める中で作成することにしたアクションプランシート
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 一方、仕事と家庭の両立については「小さな子供がいる社員は在宅勤務の最中にも、子供の世話を急にする必要に迫られることが多い」ということが見えてきた。2020年3月から5月ごろにかけて臨時休校があったり、保育園の休園があったりして、小さい子供が自宅にいることが多かったことが背景にある。

 この課題の解決策として、ランクアップは「スーパーフレックス制度」を導入した。朝の5時から夜の10時までの間であれば、1日8時間といった会社と契約した時間分、時間帯を選んで働ける制度だ。「朝の5時から7時までは資料作成などの仕事に集中した後、7時から8時30分までは朝食の準備をしたり子供の面倒を見たりする。その後、昼食時まで仕事に専念する」といった働き方ができるようにした。

スーパーフレックス制度を活用している社員のスケジュールの一部
スーパーフレックス制度を活用している社員のスケジュールの一部
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 関連して、小学校に入る前の小さな子供を持つ社員に向けては、子供の急な病気で看護が必要になったとき、ベビーシッター派遣サービスを1回当たり300円で利用できる「病児シッター制度」を在宅勤務時に利用できるようにした。ベビーシッターを依頼すると1日約3万円かかるが、会社がほぼ全額、負担する。

 これまでもあった制度だが、新型コロナ対策として在宅勤務が基本となったことに合わせて制度の適用範囲を出社時だけでなく、在宅勤務時にも広げた。社員はベビーシッターに子供の看病を依頼することで、仕事の時間を確保し、専念できる。

 ランクアップの社員はそれぞれ担当している仕事が異なるため、他の社員が肩代わりすることは難しい。こうした状況で子供の体調が急に悪くなってしまうと、仕事を続けることは難しくなる。子供の体調不良が続いて仕事を休みがちになると、周囲に気兼ねして退職するといった状況にもなりかねない。こうした悪循環に陥らないよう「仕事を続けられるように、社員を全力で支援する制度を整えてきた」と岩崎社長は説明する。

 一連の取り組みの結果、2020年5月に実施した社内アンケートでは、社員の約8割が「テレワークで生産性が上がった」と回答する成果を得た。

 今後在宅勤務が常態化していくと「家事や育児といったプライベートの時間を勤務時間中にどうしても確保せざるを得ない」「看病や介護をする必要があり、仕事との両立が難しい」といったワーク・ライフ・バランスに関する課題が浮上してくると考えられる。その解決策の例としてスーパーフレックス制度の新設や病児シッター制度の拡充といったランクアップの施策は参考にできそうだ。