アフラック生命保険は顧客、代理店の営業担当者、社内ユーザーにより良いサービスを提供するためにデジタルイノベーションを進めている。VRや分身ロボットなどを使って、地方の社員が本社の職場の雰囲気をつかんだり、遠隔からでも研修に積極的に参加したりできるようにしている。
「新しい職場で新しい仕事にすぐ慣れるだろうか」。これまで未経験の部門などに異動することになった社員はこんな不安を抱くことが多い。こうした不安をVR(仮想現実)を使った社内研修で払拭しよう──。アフラック生命保険はここ数年、こうした取り組みを社内で進めている。
施策 | 概要 |
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AIスピーカー | アプリやシステムを音声で操作できるようにする音声認識・応答システム。社内ヘルプデスクなどで活用を進めている |
社内研修のデジタル化 | 離れた拠点の見学にVRを活用したり、分身ロボットを使って集合研修にリモートで参加できるようにしたりしている |
あひるーぺ | 複数の情報系システムで管理する10万件の業務マニュアルなどの情報を一元的に検索できるAIシステム。「AI検索付き電子マニュアル」とも呼んでいる |
Aflac Agile Base | 本社に設置したアジャイル型の働き方でデジタル関連プロジェクトを進められるようにしたスペース |
ビジュアルIVR | 電話問い合わせの音声ガイダンスの選択肢を顧客が持つスマホの画面に表示する仕組み。オペレーターが顧客に保険の説明をする際、資料を共有する機能なども組み込む |
3Dアバター付き音声チャットボット | 顧客応対向けの音声チャットボット。画面に、3次元で立体的に見えるアバターが表示される |
応対マニュアル自動表示AI | コンタクトセンターのオペレーターに向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて適切な応対マニュアルを自動的に示す |
営業サポートAI | 営業担当者に向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて、説明すべき内容などのアドバイスを自動的に示す |
契約変更業務のデジタル化 | 紙文書を多く扱っていた保険契約の変更業務を、AIを組み込んだOCR、RPA、デジタルワークフローを組み合わせてデジタル化する |
具体的には、社員向けのキャリアアップ関連の研修についてVRを活用している。ダイバーシティー(多様性)推進活動の中で社員から「未経験の部門へ異動するのは不安だ」といった声が上がったことを受け、2018年11月から定期的にこの研修を開いている。
1回の研修には、異動の経験がない社員など約40人が参加する。まず異動経験を持つ社員との座談会を開く。ここで参加する社員が異動経験者の話を聞いたり、「異動に当たって準備しておいた方がいいことはないか」といった質問をしたりして、不安を払拭する。
その後、異動先の職場の具体的なイメージを持ってもらえるようにするためにオフィスツアーを開く。このオフィスツアーがVRの出番だ。具体的には、営業部門、企画部門、資産運用部門の協力を得て、職場の様子や仕事の内容が分かるVRコンテンツをそれぞれ制作。これを研修に参加する社員などに見てもらっている。
異動経験がない社員向けのVR研修作りは2018年9月から始めた。アフラック生命保険で人事などを担当してきた髙代公美東京総合支社支社次長はVR研修を制作する前の状況について次のように振り返る。「東京・新宿の本社でオフィスツアーをする場合、遠方にいるなどの事情で参加できる社員が絞られるといった懸念があった。オフィスツアーに参加する社員を受け入れる部門も準備が大変になるという課題があった」
髙代支社次長は、こうした課題を解決して、研修場所から離れた社員でも参加できるオフィスツアーを運営できないかをIT部門に相談した。するとIT部門の担当者からVRの活用提案を受けた。IT部門では2018年6月ごろから先端技術の1つとして業務への適用を検討していたのだ。これを機に研修でのVR活用を本格的に進めることにした。
ビデオ会議など3部門の仕事の様子を紹介
VR機器の選定について、アフラック生命保険のIT担当者である大槻力哉基盤サービス部ITサービスデザイン課主任は「様々な部署に届けて見てもらえるようにするため、スタンドアロンで動くうえに、軽量で使い勝手の良い機器を、という観点で選んだ」と話す。具体的にはVR Japanが販売する「IDEALENS」を採用した。
VR端末で見るコンテンツのシナリオについては、営業部門、企画部門、資産運用部門それぞれの担当者が検討した。このうち企画部門は毎週、社内向けに配信しているビデオニュースのスタジオを公開。社員に普段見ているビデオニュースを伝えている場を紹介することにした。米国法人と連携して仕事を進めている資産運用部門は、米国法人の担当者とテレビ会議をしている様子などを紹介すると決めた。
シナリオが固まると、3部門それぞれでVRコンテンツを制作していった。ナレーター役の社員が部門の業務内容を説明したり、部門内で働く社員や管理職にインタビューしたりしていく。
髙代支社次長は「映像は360度なので、VR機器を身に着けた社員は、説明内容やインタビューを聞きながら、周りを見てオフィスの様子や雰囲気をつかんでもらえるようにしている」と話す。あたかも本当にその場にいると感じる没入感がVRコンテンツにあることから、大槻主任は「VRを見ている社員に向けて、特別にオフィスツアーを実施している感覚を持ってもらえる」と述べる。