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アフラック生命保険は顧客や代理店の営業担当者、社内ユーザーにより良いサービスを提供するためにデジタルイノベーションを進めている。コンタクトセンターに電話してきた顧客の利便性を高めたり、コンタクトセンターや営業部署で顧客応対する担当者を支援したりしている。「顧客応対のレベルを高めるDX」とも言える4つの取り組みを紹介する。

アフラック生命保険が進めている主なデジタル関連施策。今回は「ビジュアルIVR」「3Dアバター付き音声チャットボット」「応対マニュアル自動表示AI」「営業サポートAI」を取り上げる
施策概要
AIスピーカーアプリやシステムを音声で操作できるようにする音声認識・応答システム。社内ヘルプデスクなどで活用を進めている
社内研修のデジタル化離れた拠点の見学にVRを活用したり、分身ロボットを使って集合研修にリモートで参加できるようにしたりしている
あひるーぺ複数の情報系システムで管理する10万件の業務マニュアルなどの情報を一元的に検索できるAIシステム。「AI検索付き電子マニュアル」とも呼んでいる
Aflac Agile Base本社に設置したアジャイル型の働き方でデジタル関連プロジェクトを進められるようにしたスペース
ビジュアルIVR電話問い合わせの音声ガイダンスの選択肢を顧客が持つスマホの画面に表示する仕組み。オペレーターが顧客に保険の説明をする際、資料を共有する機能なども組み込む
3Dアバター付き音声チャットボット顧客応対向けの音声チャットボット。画面に、3次元で立体的に見えるアバターが表示される
応対マニュアル自動表示AIコンタクトセンターのオペレーターに向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて適切な応対マニュアルを自動的に示す
営業サポートAI営業担当者に向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて、説明すべき内容などのアドバイスを自動的に示す
契約変更業務のデジタル化紙文書を多く扱っていた保険契約の変更業務を、AIを組み込んだOCR、RPA、デジタルワークフローを組み合わせてデジタル化する

音声を聞く代わりに画面を見て選べるビジュアルIVR

 「お電話ありがとうございます。給付金に関するお問い合わせは1を押してください。資料請求に関するお問い合わせは2を、保険料に関するお問い合わせは3を…」。保険会社のコンタクトセンターに電話をするとこんな音声ガイダンスが自動で始まることが多い。しかも音声ガイダンスの流れる時間が長い場合、最後まで聞かないと何番を押せばよいか分からない。電話した顧客のイライラは募るばかりだ。

 アフラック生命保険は、顧客が感じるこのイライラを「ペインポイント(困りごと)」と捉えている。この解決のため「ビジュアルIVR」と呼ぶサービスを始めた。アフラックのコンタクトセンターに電話をかけた顧客の了解を得られたら、顧客が電話をかけているスマートフォンにSMS(ショート・メッセージ・サービス)を使って、URLを含めたメッセージを自動送信する。

アフラック生命保険のコンタクトセンターに電話問い合わせをした顧客向けのビジュアルIVRの画面例
アフラック生命保険のコンタクトセンターに電話問い合わせをした顧客向けのビジュアルIVRの画面例
(出所:アフラック生命保険)
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 顧客が届いたメッセージ内のURLをタップすると、音声ガイダンスで案内していた問い合わせ項目の一覧が画面に現れる。顧客はこの中から問い合わせをしたい内容をタップ。タップした項目によって、コンタクトセンターのオペレーターにつないだり、問い合わせ内容を解決できる説明コンテンツを盛り込んだアフラックのWebページを表示したりする。顧客は音声ガイダンスを最後まで聞く必要はなく、イライラも解消できる。

1日数百件の電話問い合わせでWebを案内

 2019年11月からこのサービスを顧客に提供してからは、「1日当たり数百件の電話問い合わせに対してアフラックのWebページを案内できるようになった」と鍵谷圭二郎デリバリーコーディネーション部ビジネスリレーション課課長は説明する。1日当たり数百人の顧客に対して、疑問を解消できるようなWebページを効率よく紹介できるようになっただけでなく、オペレーターが電話で応対する件数もその分減り、効率化が図れているわけだ。

 このサービスはイスラエルのソフトウエアベンダーであるコールビューのコンタクトセンター向けソフトを基に開発した。このソフトが備えるビジュアルIVR機能を使って実現した。アフラックは同ソフトの国内ファーストユーザーだが、イスラエルでは銀行や保険会社が既に利用しており、電話で問い合わせた顧客を自社のWebサイトに誘導するなどの用途で導入が進んでいるという。

 導入のきっかけは2019年春、アフラックの役員がイスラエルを訪問したときに先進技術の1つとして紹介されたことだ。早速、IT部門が技術面での調査や社内で適用できるかなどを見極めることにした。顧客からの問い合わせ応対を担当する業務部門の協力を得てワークショップを開いて検討。「音声ガイダンスが長い」といった課題を解決できるとして導入を決め、2019年11月にビジュアルIVRサービスを始めた。

オペレーターが電話する顧客と説明資料を共有

 2020年5月には、導入したソフトが備える2つの機能を使って、できることを増やした。コンタクトセンターの担当者向けにトレーニングを実施した後、実際の顧客対応に活用していく。機能の1つが「コラボレーション」だ。コンタクトセンターのオペレーターが使うパソコン上の説明資料を、顧客のスマートフォンの画面にも表示させて共有できるようにする。

 この機能はオペレーターと顧客の会話中に使う。保険商品などの内容が複雑な場合、分かりやすくビジュアルに示した資料を、顧客のスマホ画面に示しながら説明できる。「画面上の資料に電子的なペンで丸を付けることもできるので、顧客に向けてより分かりやすく説明できる」と、岡田裕輝デリバリーコーディネーション部ビジネスリレーション課課長代理は説明する。

アフラック生命保険のコンタクトセンターで活用する「コラボレーション」の画面。左はオペレーターのパソコン用画面、右が顧客のスマートフォンの画面だ。オペレーターがマウス操作でパンフレットを選ぶと、その内容が顧客のスマートフォンに表示される
アフラック生命保険のコンタクトセンターで活用する「コラボレーション」の画面。左はオペレーターのパソコン用画面、右が顧客のスマートフォンの画面だ。オペレーターがマウス操作でパンフレットを選ぶと、その内容が顧客のスマートフォンに表示される
(出所:アフラック生命保険)
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 説明資料は、オペレーターのパソコンで動く専用ソフトを使い、簡単なマウス操作で表示できるようにしている。オペレーターが資料を選ぶと、顧客のスマートフォンにURLを含むSMSメッセージを自動的に送信。顧客がこのURLをタップすれば説明資料を閲覧できる。「固定電話で話しながらパソコンを使っている」という顧客にはメールでURLを送れる。

電話中に申込書の修正や記入を顧客に頼める

 もう1つの機能が「フォームズ」だ。データ入力用のフォームを顧客に示して入力してもらえるようにする。保険商品の申し込み手続きをする場面や申し込み内容の修正が必要な場面で利用する。

 以前は顧客が紙の申込書に記入し、アフラックへ郵送してもらう必要があった。申込書の内容に不備があると修正の依頼などを郵便でやり取りする手間もかかっていた。土屋敦デリバリーコーディネーション部IT開発プロモーション課課長は「すべての手続きを電子化するのは難しいが、フォームズを使うことで郵便によるやり取りの手間を省いていける」とみている。

アフラック生命保険のコンタクトセンターで活用する「フォームズ」の画面。左はオペレーターのパソコン用画面、右が顧客のスマートフォンの画面だ。オペレーターは入力フォームを顧客と共有できる。必要に応じて顧客からサインをもらうこともできる
アフラック生命保険のコンタクトセンターで活用する「フォームズ」の画面。左はオペレーターのパソコン用画面、右が顧客のスマートフォンの画面だ。オペレーターは入力フォームを顧客と共有できる。必要に応じて顧客からサインをもらうこともできる
(出所:アフラック生命保険)
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 コンタクトセンターの担当者が保険商品について電話で顧客に説明した後、顧客が申し込みを希望した場合にフォームズを使うことで、その場で電子的に手続きできるようにする。申込書の内容に不備がある場合、担当者がフォームズを使いながら、修正すべき項目を電話などで顧客に説明。顧客はフォームズですぐに入力内容を修正できる。

 岡田課長代理は「コンタクトセンターにおけるお客様からの電話応対に関する一連の処理を1つのシステムで完結できるようになった」と話す。「今後は一連の処理の中でどこに課題があるかもつかめるようにしていき、より良い電話応対サービスに改善できるようにしていきたい」と続ける。

 一連の機能はまずアフラックのコンタクトセンターから活用を始めた。「今後は保険代理店にいる営業担当者も利用できるようにしていければと考えている」と鍵谷課長は話す。代理店の担当者からアフラックの支援部署に電話で問い合わせがあったときや、代理店の担当者が担当顧客と電話でやり取りするときに活用していく予定だ。