アフラック生命保険は顧客や代理店の営業担当者、社内ユーザーにより良いサービスを提供するためにデジタルイノベーションを進めている。これまで紙文書を担当者同士でやり取りしていた保険契約の変更業務を抜本的に見直している。AI(人工知能)を組み込んだOCR(光学的文字認識)である「AI OCR」や、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」、「デジタルワークフロー」を組み合わせてアジャイル型で進めている。
新しい保険サービスの開発をはじめとする新規の取り組みを社内で増やすには、これまで進めてきた業務について質を落とすことなく効率化し、社員が新しい取り組みに着手できるようにしていかなければならない――。
こうした狙いで、アフラック生命保険は2019年初めから、顧客の依頼を受けて保険契約に関する情報を変更する業務を対象に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている。保険契約の変更業務には加入中の保険の名義や住所、保障内容を変更する手続きなどがある。こうした業務を同社は契約保全と呼び、契約サービス部門が担当している。
施策 | 概要 |
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AIスピーカー | アプリやシステムを音声で操作できるようにする音声認識・応答システム。社内ヘルプデスクなどで活用を進めている |
社内研修のデジタル化 | 離れた拠点の見学にVRを活用したり、分身ロボットを使って集合研修にリモートで参加できるようにしたりしている |
あひるーぺ | 複数の情報系システムで管理する10万件の業務マニュアルなどの情報を一元的に検索できるAIシステム。「AI検索付き電子マニュアル」とも呼んでいる |
Aflac Agile Base | 本社に設置したアジャイル型の働き方でデジタル関連プロジェクトを進められるようにしたスペース |
ビジュアルIVR | 電話問い合わせの音声ガイダンスの選択肢を顧客が持つスマホの画面に表示する仕組み。オペレーターが顧客に保険の説明をする際、資料を共有する機能なども組み込む |
3Dアバター付き音声チャットボット | 顧客応対向けの音声チャットボット。画面に、3次元で立体的に見えるアバターが表示される |
応対マニュアル自動表示AI | コンタクトセンターのオペレーターに向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて適切な応対マニュアルを自動的に示す |
営業サポートAI | 営業担当者に向けたAIシステム。顧客との会話の内容を踏まえて、説明すべき内容などのアドバイスを自動的に示す |
契約変更業務のデジタル化 | 紙文書を多く扱っていた保険契約の変更業務を、AIを組み込んだOCR、RPA、デジタルワークフローを組み合わせてデジタル化する |
従来は顧客から郵送で受け取った申請書類などの紙文書を、業務担当者同士でやり取りしながら変更手続きを進めていた。紙文書の受け渡しをしたり、申請書類の手続きがどこまで進んでいるのかを調べたりするのに時間がかかっており、効率的とは言えなかった。
そこで顧客から紙文書で申請書類を受け取った後でも、「ペーパーレスで効率よく仕事ができるようにするため、デジタル技術を駆使したシステムの開発に着手することにした」と滝沢一史保全手続きUI/UX向上トライブ保全プロセス最適化スクワッドプロダクトオーナーは説明する。
契約変更業務のデジタル化に乗り出した背景には、同社が「短期間に繰り返し成果を出していく」アジャイル型の働き方改革を進めてきたことも大きい。本格的な社内普及は2019年1月からだが、それ以前から社内の一部でアジャイル型の働き方改革が進んでいた。
従来、契約サービス部門の業務を抜本的に見直すには、数年がかりの業務改革プロジェクトを企画して進めていく必要があった。業務内容が多岐にわたっていたり、業務プロセスが複雑だったりするためだ。一方、アジャイル型の働き方であれば、「小規模な範囲で始めて成果を出し、徐々に広げていく」といった進め方ができる。
「数年かかる大がかりなプロジェクトの進め方であれば、計画立案だけで3カ月はかかる。新しいアジャイル型の働き方であれば数カ月といった期間で、小規模とはいえ改革の成果を出せる」。滝沢プロダクトオーナーはそう考えてアジャイル型の業務改革に乗り出した。
3つのデジタル技術を採用、「数年」といった期間はかけない
プロジェクトは2018年9月から始まった。同年12月までの約3カ月間で契約変更業務の課題を洗い出したうえ、それらをどのような技術を使って解決するのかを検討していった。
検討の結果、3つのデジタル技術を採用することにした。紙の申請書類に書かれている手書きを含めた文字を、テキストデータに自動的に変換するAI OCR、手順が決まったパソコン作業を自動化する技術のRPA、プログラミングをすることなく業務処理の流れを設定できるデジタルワークフローである。
「これらのデジタル技術を組み合わせていけば、数年といった期間をかけなくても導入できるとみて採用した」と歌田皇一郎デリバリーコーディネーション部ITビジネスアナリストチャプターチャプターリードは話す。
AI OCR、RPAおよびデジタルワークフローを採用したのは、アフラックがこれらのデジタル技術を使ってサービスなどを開発する専門部署を設けて社内普及を進めていたことも大きい。AI OCRについてはAI insideが提供するクラウドサービス「DX Suite」、RPAツールはNTTデータが手掛ける「WinActor」や英ブループリズム(Blue Prism)の「Blue Prism」、デジタルワークフローは米サービスナウ(ServiceNow)のクラウドサービス「Now Platform」を導入した。RPAは主にBlue Prismを活用しているという。