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 新型コロナウイルスの感染拡大で、政府や自治体がビッグデータを活用し、対策に役立てる動きが広がっている。動きを支えるのは携帯各社やIT企業が提供する統計データだ。

 2020年5月1日、政府が目標に掲げる「8割の接触削減」について、政府の専門家会議は「接触頻度」を計算した。東京・渋谷駅や大阪・難波駅のような人が集まる地域では、30代以上の生産年齢人口の接触頻度は減少率が8割に達しておらず、都道府県をまたぐ移動も3~5割の減少に留まるところが多かった。このため専門家会議は「都心部への通勤を続ける限り、生産年齢人口の接触頻度の減少度合いは少ない」と結論づけ、さらなる対応を求めた。

 この「接触頻度」の計算にはNTTドコモの「モバイル空間統計」を用いている。基地局のエリアごとに所在する携帯電話の台数から1時間ごとの各エリアの人口を推計する仕組みだ。

 携帯各社やIT企業のビッグデータは既に商用化されており、民間企業が商圏分析やユーザー調査などに用いるほか、政府・自治体も観光振興やまちづくりなどに活用してきた。新型コロナの感染拡大を機に、政府や自治体のビッグデータの活用がさらに加速している。政府や自治体に統計データを提供する各社の取り組みを追った。

位置と検索、2つのビッグデータを組み合わせる

 4月9日、Zホールディングス傘下のヤフーは全国の都道府県と政令指定都市を対象に、同社のビッグデータをWebブラウザー上で調査・分析できるツール「DS.INSIGHT」を2021年3月31日まで無償提供すると発表した。67の対象自治体のうち5月14日時点で8割ほどが利用しているという。

ヤフーの位置情報と検索情報のビッグデータ調査・分析ツール「DS.INSIGHT」
ヤフーの位置情報と検索情報のビッグデータ調査・分析ツール「DS.INSIGHT」
(出所:ヤフー・データソリューション)
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 DS.INSIGHTはヤフーユーザーの位置情報および検索情報のビッグデータを分析できるサービスだ。ポータルサイト「Yahoo!」をはじめとする同社サービスの利用者は月間5200万人に達する。そのうちヤフーのアプリを使用しており、許可を得られたユーザーに限り、スマートフォンの全地球測位システム(GPS)から位置情報を推計し、個人を特定できないように統計処理を施している。

 自治体はDS.INSIGHTを使うと、都道府県や市区町村の滞在人口や来訪者人口の推計値を日次で確認できるようになる。125メートル四方での人口密度を色で示す「人口ヒートマップ」の機能もある。

 例えば兵庫県であれば神戸市中央区のような商業集積地と、尼崎市のような工業集積地とでは人々が地域を訪れる目的が異なる。地域ごとに外出自粛の効果を把握し、特性に応じた対策を立案し実行できる。

 「コロナ」や「マスク」など特定の検索キーワードに対して、頻繁に同時検索される言葉を一覧表や図で表示する機能もある。実際に「マスク」であれば「在庫」「作り方」「洗い方」などが同時検索されていた。時間の経過とともに検索するキーワードは変わるため、ある期間内に人々の関心がどう変わっていくかを分析して政策に役立てることも可能だ。

 このように、位置情報と検索情報という2つのビッグデータを組み合わせて、ある特定の地域で頻繁に検索されるキーワードを性別ごとに表示できる点がDS.INSIGHTの特徴といえる。ヤフーはツールを提供し、実際の分析は各自治体が担う。

 ただ、データの分析や市民への公開方法については、自治体の担当者を対象にした説明会をヤフーがオンラインで開催している。1日2回、各回1時間半ほどで2~3の自治体の担当者が参加しているという。自治体は都合のいい日程を選んで予約できるが、無償提供の発表以来、予約はいっぱいの状況が続いている。

 「民間ビッグデータを使って市民サービスを向上させることへの関心が、新型コロナの感染拡大を機に高まっている。説明会でのやりとりを通じて、ビッグデータがどんな課題解決に貢献できるのかを当社も探っている」。同社の大屋誠データソリューション事業本部パブリックエンゲージメント部部長はこう話す。