全2621文字
PR

 新型コロナウイルス感染症対策で、IT企業や通信事業者が政府に対してスマートフォンの位置データなどを基にした統計データを提供する動きが広がっている。

 政府は2020年3月31日、人流把握とクラスター早期発見を目的に、データプラットフォーム事業者や移動通信事業者に「感染拡大防止に資する」データの提供を要請した。現時点で厚生労働省に位置データを基にした統計データを3社が提供している。NTTドコモ、ソフトバンクのデータ事業子会社Agoop(アグープ)、Zホールディングス傘下のヤフーである。

厚労省と内閣官房にそれぞれ提供

 3社は2つの政府機関にそれぞれ別の統計データを提供している。厚労省と内閣官房だ。

 厚労省では西浦博教授ら厚労省クラスター対策班が活用し、クラスターの早期発見や人流の分析に役立てている。

 一方の内閣官房は国民に向けた「人流の減少率」の広報に役立てている。具体的には3社などが提供する分析データやリポートを生かし、その一部を内閣官房の「新型コロナウイルス感染症対策」サイト上で日々公開している。

 提供先の違いはあれど、3社のいずれのデータも、全国の特定エリアで人口がどのように増減したかについて、保有する統計データを元に推計したものである。個人が特定されないように統計処理を施されている。具体的に見ていこう。

サンプル数約7800万台、ドコモの「モバイル空間統計」

 NTTドコモの統計データを巡っては、既に厚労省のクラスター対策が活用を進めている。2020年5月1日に政府の専門家会議が公表した年代別の「接触頻度」の分析には、ドコモが提供する統計データを使った。

 具体的には「モバイル空間統計」と呼ぶ統計データ提供サービスの1つで、2020年1月から商用化した「国内人口分布統計リアルタイム版」のデータである。モバイル空間統計はエリアごとの人口の増減を1時間後に提供する。各基地局のエリア内にある携帯電話の数から、各エリアの人口をドコモの携帯電話の普及率を加味して1時間ごとに推計する仕組みだ。

 契約情報を統計的に処理することで、年代や性別、市区町村といった居住地ごとに分析できる。エリアの単位は500メートル四方で、国内約7800万台というサンプル数の多さが強みだ。

モバイル空間統計「国内人口分布統計リアルタイム版」の基本情報
モバイル空間統計「国内人口分布統計リアルタイム版」の基本情報
(出所:NTTドコモ)
[画像のクリックで拡大表示]

 NTTドコモは統計データを提供するだけで、クラスター分析はクラスター対策班が担う。厚労省はより詳細な「接触頻度」を分析するために、ドコモに対して「居住者の割合などより詳しいデータを見たいという要望がある」(ドコモ・インサイトマーケティングの古田泰子エリアマーケティング部副部長)。ドコモは、個別に同意した利用者の位置情報を基に、エリア内にいる人の交通手段や来訪頻度が分かる「カスタマイズ分析」を提供できないかを検討中という。

茨城・水戸駅周辺のリポート。分析する500メートルエリアが駅の中心からややずれる
茨城・水戸駅周辺のリポート。分析する500メートルエリアが駅の中心からややずれる
(出所:NTTドコモ)
[画像のクリックで拡大表示]

 ドコモは内閣官房に提供するデータに対しては、厚労省に提供する統計データにさらに分析を加え、主要駅周辺など特定エリアにおける人口増減分析データとリポートを提供している。居住エリアを含まないなど、人口変動の把握に適する500メートル四方エリアを分析対象として抽出しているという。分析データとリポートはドコモのサイト上にも公開している。