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 「保健所への支援に行ける職員は手を挙げてほしい」。東京タワーを仰ぎ見る場所にある東京都の港区役所が職員にこんな呼びかけをしたのは2020年4月だった。自ら手を挙げた情報システム部門の職員が保健所のピンチを救った。

写真 東京都港区にある「みなと保健所」
写真 東京都港区にある「みなと保健所」
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 小池百合子東京都知事が緊急会見を開いて外出自粛を求めたのは3月25日。その約2週間後の4月7日、政府は「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」を出した。その時点で東京・港区の「みなと保健所」が管轄する医療機関が報告した新型コロナウイルス感染者は累計で100人を超えていた。

 港区の情報システム部門である情報政策課で個人情報保護を担当している日野麻美係長は4月20日にみなと保健所への兼務辞令を受け取った。日野係長は自ら手を挙げて新型コロナ感染者に対する療養費などの支給事務に従事するため、他の職員とともに保健所の支援に加わった。

 だが翌日、日野係長が保健所に赴いてすぐ目の当たりにしたのは驚きの光景だった。職員が電話や手書き書類、FAXと格闘するアナログな事務作業に忙殺されていたのだ。

 感染症法は、医師が新型コロナの感染者だと診断すると直ちに「新型コロナウイルス感染者発生届(コロナ発生届)」を書いて管轄である最寄りの保健所に届け出るよう義務付けている。コロナ発生届のほとんどはFAXで届く。

図 「新型コロナウイルス感染症発生届」の書面
図 「新型コロナウイルス感染症発生届」の書面
(出所:厚生労働省)
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 ところが医師が走り書きしたコロナ発生届は判読が難しい手書き文字で埋められていた。保健所の事務員は次々とFAXで寄せられるコロナ発生届から何とか感染者の名前などを読み取って、それが正しいかどうか夜半すぎまで医療機関に電話をかけて確認する作業に追われる事態に陥っていた。

 しかも医療機関が感染者から聞き取ってコロナ発生届に記載した感染者の住所の半分は間違っていた。みなと保健所に届けられた感染者のなかにはホテルの宿泊者や大手企業の在勤者もいる。

 体調が悪くなって医療機関に駆け込んで診断を受けた際に医師らが聞き取った住所が不正確だったり、他の自治体に住民登録をしていたりする例が少なくなかった。さらに港区には法務省の出入国在留管理庁(旧入国管理局)もあるため、外国人が感染したという発生届も寄せられる。

 感染症法は新型コロナ感染者だと診断した医療機関を管轄する保健所に対して、感染者の行動履歴を聞き取って濃厚接触者がいないかを調べる「積極的疫学調査」や入院勧告ができると規定する。感染者が保健所の勧告で入院した場合は公費で医療費も負担する。そのため感染者の居場所や住所などを正確に把握できなければ保健所の事務は滞ってしまう。