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 「もう止めようよ…。手書きの発生届」。2020年4月23日、ツイッターでこんな書き込みとともに、医師が保健所に送る新型コロナウイルス感染症発生届の画像が拡散した。新型コロナの感染拡大に追われる医療現場がFAXを使っているという事実に驚きが広がり、政府も動いた。

医師が保健所に送る新型コロナウイルス感染症発生届
医師が保健所に送る新型コロナウイルス感染症発生届
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 このツイートは河野太郎防衛大臣がIT担当の平将明内閣府副大臣に向けてリツイートし、平副大臣はそれを受けて「引き取ります」とツイッターで即答した。2020年4月末には厚生労働省がオンライン化を公表し、複数の海外メディアが「ついに日本政府がFAXから脱却する」と伝えるほど注目を集めた。

 しかし平副大臣は「正直、結構大変だろうなと思った」と振り返る。オンライン化するには医療機関だけでなく、保健所から自治体、厚労省も網羅するシステムを整備する必要があるからだ。実際に厚労省が進めているシステム開発は一筋縄とはいかないようだ。

平将明内閣府副大臣
平将明内閣府副大臣
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FAX廃止のために急いだシステム構築

 平副大臣は2020年4月6日に政府が立ち上げた官民連携の「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」の事務局長だ。テックチームは新型コロナウイウルス感染症対策大臣を兼ねる西村康稔経済再生担当大臣がチーム長となって、厚労省などと数々のIT活用プロジェクトを進めている。

 テックチームはこれまで厚労省とLINEが協定を結んで国内約8300万人のLINE利用者に対して新型コロナ感染症のアンケートをしたり、感染者と濃厚接触した恐れのある人に通知を送る「接触確認アプリ」の仕様を検討したりした。全国の医療機関が提供している日々の医療体制の情報をオープンデータとして公開するプロジェクトも担った。

 厚労省が所管する事務は人命に関わる。新しい技術を導入する場合はリスク評価に時間をかける必要があり、保守的にならざるをえない。そのため平副大臣は厚労省だけにIT導入を任せるのではなく、リスク評価や技術動向などを検討して政府のとりまとめ役となるためにテックチームを立ち上げたという。

 一方、厚労省は新型コロナ感染症の発生届のオンライン化に向けた検討を進めていた。国や自治体が現在、感染症の情報をやりとりするには国立感染症研究所が運営する「感染症サーベイランスシステム(NESID)」のファイル共有システムを利用している。

 NESIDは政府共通プラットフォーム上に構築されており、地方自治体や自治体ごとの保健所と、感染症研究所の感染症情報センターなどを結ぶネットワークシステムだ。

 医師から発生届を受け取った保健所は内容を確認してNESIDに登録する。それ以降はネットワーク上でデータがやりとりされており、感染者数などの統計データの作成にも使われている。

 ただ、最初に医師が発生届を保健所に送る手段はFAXを利用するというのが実情だった。厚労省は2022年4月にもNESIDを更改するという検討内容を公表していた。