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 「隣の自治体よりも10万円給付が遅いのではないか」。全国の自治体は住民からのこんな問い合わせに追われた。定額特別給付金の申請受付の開始を競い合う事態に追い込まれたうえに、オンライン申請であるにもかかわらず今も手作業を強いられてる。

 約23万世帯が住む東京都品川区。同区は2020年5月1日に定額特別給付金の受け付けを始め、5月20日までにオンライン申請が1万件を超えた。様々な部署に応援を頼んで集めた職員ら計10人が午前と午後の2交代制、2人1組になって読み合わせしながらをデータの確認作業に追われている。

 1日当たりの作業ペースを上げて振り込みを始めているものの、オンラインと郵送のどちらの方が早く振り込みできるかは分からないという。「世帯員の氏名を印刷した郵送の方がミスは少ないので確実。最後の振り込みを早く終えるようにしたい」(寺嶋清・品川区特別定額給付金担当課長)と話す。

品川区役所でのオンライン申請の確認作業
品川区役所でのオンライン申請の確認作業
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シリアル番号が使えず

 なぜオンライン申請に手作業が必要なのだろうか。

 総務省が2020年4月20日に公表した特別定額給付金は、4月27日時点で住民基本台帳に記載された全ての住民を対象に1人当たり一律10万円を支給する。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため郵送およびオンラインで世帯ごとの申請を受け付けて、申請した世帯主と同じ名義の金融機関の口座に振り込むのが原則だ。

 郵送やオンラインでの申請で二重給付を避けるには厳格な本人確認が必要だ。オンライン申請はマイナンバーカードを持っている住民が対象で、マイナンバー制度の個人向けWebサイト「マイナポータル」の「ぴったりサービス」を利用する。

 4月時点で自治体がマイナポータルに入力されたデータを受ける仕組みがあったのは全国1741市区町村のうち935市区町村だった。政府は急きょ残りの806市区町村がマイナポータルと接続できるようにして、特別定額給付金のオンライン申請が受け付けられるシステムを構築した。

 実は自治体が政府の運営するマイナポータルからデータを受け取る仕組みは市区町村によって異なり、全部で6パターンある。「力業で整備した」(自治体関係者)と見られている。給付金を盛り込んだ補正予算が2020年4月30日に国会で成立すると、翌5月1日に679市区町村がオンラインで受け付けを始めた。

 政府や一部自治体の首長はオンライン申請に強い期待を寄せていた。しかし給付金の事務に追われた自治体職員は「どんなデータが来るのか、どうやって本人の申請だと審査したらよいのかという基準もない。行き当たりばったりで始めるしかなかった」と振り返る。「ぶっつけ本番」のシステムだったのだ。

 複数の自治体関係者によると、政府が急ごしらえで構築したシステムは当初、きちんと本人確認ができる仕組みとは言いがたい状態だった。

 マイナンバーカードの内蔵ICチップに搭載された公的個人認証サービス(JPKI)には、電子署名用と利用者証明用という2つの電子証明書があり、それぞれにシリアル番号がある。多くの自治体は利用者証明用と呼ぶ電子証明書のシリアル番号を使って、住民がコンビニエンスストアで住民票などを受け取れるサービスを展開している。

 そのため一部の関係者は自治体が宛名番号と呼ばれる庁内で住民を管理する番号と、利用者証明用の電子証明書のシリアル番号を突合すれば、申請した世帯主の名義と自治体ごとの住民基本台帳と照合して本人確認ができると踏んでいた。それが最も効率的な方法だからだ。