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 米国による事実上の禁輸措置に直面する自社を「弾丸で穴だらけの飛行機」に例えた中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)。米商務省が2020年5月、ファーウェイを名指しした規制強化方針を公表した10日前、米国主導でもう1つのファーウェイ包囲網が立ち上がった。世界各国の政府関係者に、携帯電話ネットワークを構成する基地局をマルチベンダーで運用できるようにする「Open RAN」導入を促す業界団体「Open RAN Policy Coalition」だ。米国はファーウェイ対抗軸を作るための手段として、Open RANを強力に後押しする。米中分離の本格化は、通信機器市場のトレンドを飲み込み、新たな分断に広がる恐れがある。

政治色の強いOpen RAN連合が米国主導で発足

 「団体名のCoalition(連合)という言葉は強烈。Coalitionは、多国籍軍(Coalition Forces)など軍事的な連合によく使われる言葉で、どうしても政治的・軍事的なイメージがつきまとう」。

 軍事関連にも明るい業界関係者は、米国主導で新たに立ち上がった業界団体、Open RAN Policy Coalitionのイメージについてこのように指摘する。

米国主導で新たに発足した業界団体「Open RAN Policy Coalition」
米国主導で新たに発足した業界団体「Open RAN Policy Coalition」
(出所:Open RAN Policy Coalition)

 Open RANはここ数年、通信業界で注目を集める新たな波だ。4Gや5Gといった通信方式は、携帯電話の標準化団体「3GPP」で標準仕様が決められている。しかし細部に至るまで仕様が決まっているわけではなく、例えば基地局を構成するBBU(Baseband Unit)とRRH(Remote Radio Head)はこれまでマルチベンダーで運用することが難しく、1社の機器でそろえる必要があった。

 そのため携帯電話事業者のネットワークコストの大半を占める基地局市場は、ファーウェイのほかスウェーデン・エリクソン(Ericsson)、フィンランド・ノキア(Nokia)という大手ベンダーが8割近いシェアを握る寡占市場となった。

 Open RANは、そんなファーウェイをはじめとした大手ベンダーによる囲い込みを避け、新興ベンダーの機器も適材適所で導入できるようにしていく取り組みだ。機器コストを抑えたい世界の通信事業者は、大手ベンダーの囲い込みから逃れようとこぞってOpen RANに注力し始めている。

 Open RANは、これまで主に2つの業界団体がリードしてきた。米フェイスブック(Facebook)が中心となり16年に発足した「Telecom Infra Project(TIP)」と、米AT&Tや中国移動、NTTドコモなど世界の大手通信事業者が中心となって18年に立ち上げた業界団体「O-RAN Alliance」だ。

 Open RAN関連の最新団体となるOpen RAN Policy Coalitionの設立メンバーは、両団体の参加者が多数を占めるものの、他にはない特徴がある。設立メンバー31社の多くが米国企業で、中国企業の名前が一切見当たらない点だ。Open RAN Policy Coalitionの事務局長を務めるディアンヌ・リナルド(Diane Renaldo)氏は、米国大統領に情報通信政策を助言する米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications and Information Administration、NTIA)の出身。リナルド氏はOpen RAN Policy Coalitionの設立の目的として「Open RANの仕様について、政策的な側面に焦点をあてた補完を進めること」とブログで説明する。

20年5月末時点のOpen RAN関連業界団体の相関図。Open RAN Policy Coalitionからは、中国、ファーウェイ対抗という構図が浮かび上がる。
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20年5月末時点のOpen RAN関連業界団体の相関図。Open RAN Policy Coalitionからは、中国、ファーウェイ対抗という構図が浮かび上がる。
(出所:日経クロステック)

 ファーウェイはOpen RAN Policy Coalitionはもちろん、自らのシェアを脅かすようなOpen RAN関連業界団体に参加していない。Open RAN Policy Coalition設立の裏には、自国に大手通信機器ベンダーを持たない米国が、Open RANを錦の御旗にファーウェイ対抗軸を作ろうという狙いが透けて見える。