米中の覇権争いで世界が揺れている。米国は、中国が通信や半導体など先端技術の開発を通じて国力をさらに増進することを警戒しており、特に5G(第5世代移動通信システム)で世界をリードする中国・華為技術(ファーウェイ)に対して厳しい視線を向けている。今後、矛先はファーウェイ以外の中国企業にも向き、技術を軸にした「冷戦」は長く続くかもしれない。複数の識者に、「米中分離後の世界と今後の展望」について聞いた。
これから世界は“梅雨”の季節に入るだろう――。アナリストを経て現在は東京理科大学大学院経営学研究科教授の若林秀樹氏は、米中対立が長期化すると予想する。現時点では平和的に対立を解消できる見込みが薄く、短期間に決着がつく様子もない。この対立は自由貿易などの基礎である「国際協調体制にショックを与える可能性がある」と同氏は言う。英調査会社Omdia(オムディア)Consulting Sr Directorの南川明氏も、かつての米ソ冷戦を引き合いに出して「第2のCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)規制の様相を呈する可能性がある」と述べた。その象徴が、ファーウェイやその子会社などが記載された「エンティティーリスト(禁輸対象リスト)」である。
米商務省は安全保障などに懸念がある企業を同リストに記しており、米企業は事実上、指定企業に製品提供・技術開示ができない。米国外の製品でも、米国由来の技術を一定の割合以上含めば抵触する。
特に5G基地局のシェアで世界トップ、スマートフォン(スマホ)でも世界2位のファーウェイに対しては、米国政府が本気で潰しに来ている姿勢が見える。それが表れたのが、ファーウェイ傘下の半導体設計会社、海思半導体(ハイシリコン)の高性能な半導体チップを受託製造する台湾積体電路製造(TSMC)に対して、同社との取引をやめるように圧力をかけたことだ。
さらに、半導体設計支援ツール「EDA(Electronic Design Automation)」大手の米Synopsys(シノプシス)、米Cadence Design Systems(ケイデンス・デザイン・システムズ)などにもエンティティーリストに記載された企業とは取引しないよう圧力をかけたもようである。半導体開発の最上流から息の根を止めようという算段だ。さらに「現状は半導体を手掛けるファブレスメーカーがEDAツールを購入しているため、そこにハイシリコン社員が常駐すればツールを利用できてしまう。こうした抜け道も潰していくだろう」(南川氏)。
米国政府の強硬姿勢は、2020年の大統領選挙で仮に民主党に政権が移行しても変わらない、と識者はみる。若林氏は「中国に対する圧力はオバマ前大統領の時代から続いている」、南川氏は「こうした動きは米国通商代表部が主導している。かつての日米貿易摩擦の際は、政党が変わっても10年続いた」としている。